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インセンティブは諸刃の剣?コミュニティメンバーをTakerにさせない報酬設計

コミュニティ運営の課題の1つに「モチベーション(動機)」と「インセンティブ(報酬)」のバランスがあります。

モチベーションが高いメンバーにとってはインセンティブは不要ですが、モチベーションが低いメンバーにとってはインセンティブが必要です。しかし、インセンティブに頼り続ける限り、メンバーのモチベーションは一時的なものになってしまいます。

インセンティブがないと自発的なアクションがない状態はコミュニティにとって健全とは言えません。それはまるでエナジードリンクを飲まないと仕事ができない状態に近いでしょう。メンバーがインセンティブ漬けになってしまっていないか、常に気をつけなくてはいけません。

インセンティブが欲しいだけでアクションをするとき、メンバーは受け取るだけの「Taker」になってしまいます。しかし、コミュニティは与えることを喜びとする「Giver」によって維持される側面があります。

では、どうすればメンバーをTakerにせずに済むでしょうか?適切なインセンティブの設計とはどのようなものでしょうか?インセンティブだけでなくメンバーに内在するモチベーションも活用するにはどんなバランス感覚が求められるでしょうか?

本記事では、そういったコミュニティのインセンティブデザインについて考えていきます。それではいきましょう!




インセンティブの種類とその影響

まずは、コミュニティにおいてどんなインセンティブが存在するのか考えてみましょう。仕事の場面では金銭がインセンティブになるケースが多いですが、コミュニティでは多様なものがインセンティブとしてやりとりされています。

インセンティブはメンバーの行動を促進し、コミュニティの活性化に貢献する役割を担っています。しかし、どんなインセンティブが効果的なのか、そしてどんな影響を与えるのかを理解せずに、安易にインセンティブを導入してしまうと、かえってコミュニティの活性化を阻害してしまう可能性もあります。

ここではコミュニティにおけるインセンティブの種類とその影響について解説していきます。

①外発的インセンティブ

コミュニティにおけるインセンティブは、大きく分けて 外発的インセンティブ内発的インセンティブ に分類できます。

外発的インセンティブは、個人の外部にある便益によって行動を促進するものです。コミュニティ運営においては、メンバーの行動を促進するために、以下のような外発的インセンティブが活用されることがあります。

  • 金銭的報酬: ポイント、クーポン、現金など、直接的な金銭的な報酬。

  • 物質的報酬: グッズ、ギフト券など、金銭以外の物質的な報酬。

  • 社会的承認: いいね、コメント、シェアなど、コミュニティメンバーからの評価や承認による報酬。

  • ステータス: 役職、称号、ランクなど、地位や名誉による報酬。

  • 権限: 運営やイベント企画への参加権など、権限による報酬。

外発的インセンティブは、短期的なモチベーション向上には効果的ですが、持続的なモチベーションには繋がりにくいという欠点があります。また、以下のようなリスクについても認識しておくといいでしょう。

  • 依存: 外発的インセンティブに依存し、自発的な行動が減ってしまう。

  • 不公平感: インセンティブの分配が不公平だと感じ、コミュニティへの参加意欲が低下する。

  • 競争: インセンティブ獲得のために、メンバー同士の競争が激化し、コミュニティの雰囲気が悪化する。

外発的インセンティブは、長期的にはメンバーの内発的なモチベーションを低下させる可能性があります。これは、金銭的報酬がない場合にメンバーが行動を控えるようになる「アンダーマイニング効果」として知られています。

②内発的インセンティブ

ここまで述べた外発的インセンティブとは反対に、内発的インセンティブは個人の内側にある価値観や目標に基づいて行動を促進するものです。コミュニティ運営においては、メンバーの自発的な行動を促進するために、以下のような内発的インセンティブが活用されることがあります。

  • 達成感: 目標達成や課題克服による心理的報酬。

  • 貢献感: コミュニティや他のメンバーへの貢献による心理的報酬。

  • 所属感: コミュニティに所属していることによる安心感や帰属意識。

  • 自律性: 自身の判断で行動し、成果を上げることで得られる満足感。

  • 仲間意識: コミュニティメンバーとの交流や協力関係による心理的報酬。

  • スキル習得: 新しい知識やスキルを得ること自体が報酬。

これ以外にも様々な内発的インセンティブがあります。詳しくは以下の記事を参照してください!

内発的インセンティブは、ユーザーが主体的に行動するための動機付けになり、長期的な継続的なモチベーションにつながることが期待できます。また、以下のような効果もあります。

  • エンゲージメント向上: コミュニティへの参加意欲や積極性を高める。

  • コミュニティの活性化: メンバーの自発的な行動によって、コミュニティが活発になる。

「メンバーをTakerにさせない報酬設計」というタイトルにここまでの内容から答えを出すなら、外発的インセンティブは一時的に使うなど控えめにして、内発的インセンティブを中心に設計したほうがいい、ということになりますね。


TakerがGiverになる瞬間

さきほどからインセンティブについてご紹介してきましたが、これらを導入すればメンバーがアクティブになりコミュニティが成功する、というわけではありません。むしろ、過剰なインセンティブはメンバーをTakerにする可能性があることは冒頭に述べたとおりです。

特に外発的インセンティブではそれが顕著です。では、そのTakerがGiverに戻ることはあるのでしょうか?また、最初からTakerであったメンバーがGiverに変身する瞬間はどんなものでしょうか?

コミュニティ内でTakerがGiverに変わる過程には、他者の関与が重要な役割を果たします。リーダーや既存のGiverがTakerに親身に接し、具体的な役割を提供することで、Takerは自分の価値を認められたと感じ、積極的に貢献したいという意欲が芽生えることがあります。

また、メンバー同士が経験や知識を共有し合う場面も、TakerがGiverに変わるきっかけとなり得ます。困難に直面していたTakerが、他のメンバーの支援で問題を解決できた時、感謝の気持ちから自分も誰かの役に立ちたいと考えるようになります。受け手であったTakerが共有の喜びを知り、Giverへと変貌を遂げるのです。

加えて、メンバーの行動を認め、適切なフィードバックを与えることも大切です。Takerの利己的な行動が結果的にコミュニティに良い影響を及ぼした時、それを明確に伝えましょう。ポジティブな評価はさらなる貢献意欲を掻き立てるでしょう。

何より重要なのは、長期的な関わりの中で信頼関係を築くことです。一時的なインセンティブだけでは不十分で、メンバー同士の関係性こそがコミュニティの礎となります。日常的な交流やプロジェクトを通じて深い信頼が生まれれば、Takerも自ずとGiverとしての役割を果たすようになります。


Takerはコミュニティに要らないのか?

ここまでの書き振りからもTakerについてネガティブな印象があるかもしれません。実際のところ、Takerはコミュニティに一人もいないほうがいいのでしょうか?

確かに、コミュニティ運営において、Takerの存在はしばしば頭痛の種となります。Takerは一方的に価値を求め、自ら貢献しようとしない傾向がありますから、コミュニティ全体の熱量を下げかねません。

しかし、Takerの存在を否定することが果たして正しい選択なのでしょうか。コミュニティ運営についての理解を深めるためにも、少し立ち止まって考えてみましょう。

1. Giverへの過渡期

Takerは一見すると、コミュニティにとって負の要素のように思われがちです。Takerが多すぎるとコミュニティのバランスが崩れ、貢献するメンバーに過度の負担がかかることがあります。しかし、Takerの存在が必ずしも悪いわけではありません。Takerもまた、適切な支援や環境が整えば、Giverに変わる可能性を秘めています。Takerの中にも、何かしらの理由でまだ貢献できずにいるだけの人がいるかもしれません。例えば、コミュニティに参加したばかりで、まだ全体像が掴めずにいるメンバーがいるとします。彼らはいったんTakerの姿勢を取りますが、それはコミュニティに慣れるまでの過渡期と言えるでしょう。時間と共に、Giverへと変わる可能性を秘めているのです。

2. Takerによるポジティブな影響

Takerが存在すること自体が、コミュニティの成長や変化のきっかけとなる場合があります。Takerに対して支援や教育を提供することで、そのメンバーが新たなスキルや知識を身につけ、最終的にGiverへと変わることができます。
このプロセスは、コミュニティの全体的な成長を促進する要因となります。全員がGiverで占められたコミュニティは理想的に思えますが、そこに多様性は生まれにくいと言えるでしょう。時にはTakerの視点から、コミュニティの在り方を問い直すことも大切です。また、Takerからの指摘は、コミュニティの課題を浮き彫りにするかもしれません。既存の価値観に囚われず、新しいアイデアを取り入れる機会にもなります。Takerを受け入れる懐の深さこそ、コミュニティの成熟度を測る物差しと言えるでしょう。

Takerがコミュニティに一人もいないことが理想ではありません。重要なのはTakerがGiverに変化する可能性があり、Takerを包摂することで新たな観点が得られるものと認識し、支援と環境づくりをすることです。

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コミュニティの成熟度とインセンティブ

「外発的インセンティブと内発的インセンティブ」「TakerとGiver」というカタチで、対比的にインセンティブのことを考えてきました。

こうした概念を切り分けて理解しておくことで、コミュニティはインセンティブの力を借りて持続的に発展していくでしょう。ただし、コミュニティの成熟度に合わせてインセンティブも変化していくことがあるので、その点について補足します。

1. 発足期:外発的インセンティブによる初期メンバーの獲得

コミュニティの立ち上げ時は、まだ知名度も低く、参加者も少ないことが一般的です。この段階では、外発的インセンティブを活用して初期メンバーを集めるのも有効でしょう。例えば、参加特典やキャンペーンなどを用意し、興味を持った人々の参加を促すのです。コミュニティの価値が明確に外部に発信できていない初期段階では、内発的インセンティブだけでは人々を引き付けるのが難しいかもしれません。特にマーケティングなど事業成果に関わるコミュニティの場合、まずは一定数のメンバーを確保し、コミュニティの基盤を作ることが優先事項となります。

2. 成長期:内発的インセンティブへのシフト

一定のメンバーが集まり、コミュニティの活動が軌道に乗ってくると、徐々に内発的インセンティブの重要性が増してきます。参加者同士の交流が深まり、コミュニティへの帰属意識や貢献意欲が芽生えてくるのです。この段階では、外発的インセンティブに頼りすぎると、かえって内発的動機づけを損なう恐れがあります。メンバーの自主性や創造性を尊重し、内発的インセンティブを喚起するような働きかけが求められます。

3. 成熟期:内発的インセンティブの深化と支援の強化

コミュニティが成熟してくると、内発的インセンティブがより深化していきます。メンバーは自らの意志でコミュニティに貢献し、その活動自体に喜びを感じるようになります。Giverの割合が増え、自律的なコミュニティ運営が可能になるのです。この段階では、メンバーのエンパワーメントがさらに重要になります。運営者は、メンバーが主体的に活動できる環境を整え、必要なサポートを提供します。メンバーの自主性を尊重しつつ、適切なタイミングでフィードバックや承認を与えることで、内発的インセンティブを強化していくのです。

4. 発展期:インセンティブ設計の革新

コミュニティが発展を続けていくためには、インセンティブ設計そのものを革新していく必要があります。固定化されたインセンティブ体系では、やがて停滞が訪れるかもしれません。メンバーのニーズや社会情勢の変化に合わせて、柔軟にインセンティブを見直していくことが求められます。例えば、新たな外発的インセンティブを導入して、新規メンバーの流入を促すこともあるでしょう。あるいは、内発的インセンティブをさらに深化させるために、メンバーの自己実現を支援する仕組みを取り入れるのも一案です。重要なのは、コミュニティの目的や価値観に合致したインセンティブ設計を追求し続けることです。時代や状況に応じて、最適なインセンティブのバランスを模索していく必要があります。

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まとめ

持続的に発展するコミュニティを築くためには、インセンティブの動的な設計が不可欠です。外発的インセンティブと内発的インセンティブのバランス、GiverとTakerの共存、そしてコミュニティの成熟度に合わせた設計の最適化。これらを念頭に置きながら、メンバーの多様性を尊重し、一人一人の可能性を引き出すこと。それこそが、魅力的で活力あるコミュニティを生み出す鍵となるでしょう。

コミュニティの報酬設計は、単にインセンティブを提供する足し算の発想だけでなく、メンバーの内発的な動機を引き出すためにインセンティブを提供しないという引き算の発想が必要になります。

本記事が、インセンティブを適切にデザインし、適切なコミュニティ運営や長期的な発展を実現させる一助になればと思います。



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