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人がコミュニティに所属する欲求は「自分と他者」軸と「BeingとDoing」軸で整理できる

コミュニティに関わる人がその解像度を高めるには、人間の心理的欲求への理解が欠かせません。その欲求に基づいてコミュニティに新規メンバーが集まる仕掛けや既存メンバーのためのイベントを企画できれば、その成功確率も高まるはずです。

でも、イチから心理学やその周辺の知識を学ぶのも大変です。そこで今回は、人がコミュニティに所属しようと思うその背景にある欲求をまとめてみます。

今回の研究成果の要約:
コミュニティ所属の欲求を、「自分と他者」軸と「BeingとDoing」軸の2つの軸で分割し、4つの領域に分類しました。

具体的な欲求は以下の通り。
・アイデンティティを確立したい
・孤独や退屈を解消したい
・成長したい
・情報や資源を手に入れたい
・理想を実現させたい
・喜びや楽しみを共有したい
・悩みやモヤモヤを共有したい
・他人の役に立ちたい
・自己表現したい




コミュニティに所属する欲求を分類する

「自分と他者」軸

まずは大きな分類を考えてみましょう。わたしたちは誰のためにコミュニティに所属するのでしょうか?もちろん「自分」のためでしょう。

しかし、コミュニティには自分以外にもたくさんのメンバーがいます。全員が完全に利己的な思考で、自分自身のためだけに所属しているのだとしたら、それはコミュニティとして成立しないのではないでしょうか。

だとしたらきっと、自分のためにコミュニティに所属しながらも、きっと他者も包含した欲求が芽生えているはずです。そこで、分類軸の1つに「自分と他者」軸を設定してみます。

もう1つの軸があれば2×2の4種類に分類できそうですね。

「BeingとDoing」軸

もう1つの軸として、「BeingとDoing」軸を導入してみます。コミュニティのなかで「どうありたいか(Being)」と「どうしたいか(Doing)」を分けて欲求を捉えてみるのです。

たとえば、「コミュニティの盛り上がりを感じたい」はBeing、「イベントに参加したい」はDoing、みたいな感じですね。基本姿勢としてのBeingと実際の言動としてのDoingといった分類軸です。

実際にはBeingとDoingはパキッと明確に分離しにくいケースもあるので、便宜的な分類だと思っていただいて結構です。今回は厳密さよりも、コミュニティに所属する欲求の整理に使えることを重視します。

2軸をかけあわせた図表

「自分と他者」軸と「BeingとDoing」軸を掛け合わせることで、4つの領域に分類することができるようになりました。このそれぞれの領域にどんな欲求があるのか考えていきましょう。

「自分と他者」軸 × 「BeingとDoing」軸




①自分 × Being:自分がこうありたい!

自分 × Being:自分がこうありたい!

この領域に当てはまる欲求

  • アイデンティティを確立したい:わたしたちは様々な人との交流のなかでアイデンティティを確立していきます。しかし、日常的に交流する人は限定的であるケースも多く、そのために自分のアイデンティティが脆弱に思えることがあります。コミュニティに所属することで自分のアイデンティティを深掘りしたり、自分の新しい側面に気付けたりします。

  • 孤独や退屈を解消したい:わたしたちは社会的な動物であり、一人でいると孤独や退屈を感じやすくなります。コミュニティに所属することで、同じ興味や関心を持つ人々と交流し、日常生活に変化と刺激をもたらすことができます。さらに、コミュニティ内での人間関係は、困難な時期に支えとなり、人生の質を向上させる上で重要な役割を果たすこともあります。

コミュニティ運営者が支援できること

どちらの欲求もコミュニティメンバー同士の交流によって満たされるものです。また、コミュニティのなかで役割を担ったり、プロジェクトに関わったりするのをサポートするのも有効です。

他にも以下のような施策が有効でしょう。

  • 目的の明確化:コミュニティにしっかりとした目的があれば、所属するだけでもアイデンティティの確立に寄与します。

  • 称賛や感謝:コミュニティ運営者や他のメンバーから称賛されたり感謝されたりすると、孤独や退屈の解消につながります。

  • 気軽な交流:チャットルームなど気軽に交流できる場を設置すれば、メンバー同士の交流を促進することができます。




②自分 × Doing:自分がこうしたい!

自分 × Doing:自分がこうしたい!

この領域に当てはまる欲求

  • 成長したい:わたしたちは成長してできることを増やす欲求を持っています。コミュニティに所属することで、同じ興味関心を持つメンバーから刺激を受け、新しい知識やスキルを獲得できます。また、コミュニティ内での活動や役割を通じて、自分の強みや可能性を発見し、あらたな挑戦をスタートすることもできます。

  • 情報や資源を手に入れたい:わたしたちは生活や仕事、趣味などを充実させるために、情報や資源を求めています。コミュニティに所属することで、他のメンバーが持つ知識や経験、人的ネットワークを共有し、必要な情報や資源を効率的に入手できます。これはコミュニティにおける相互扶助にもつながりコミュニティの価値が向上します。

  • 理想を実現させたい:わたしたちは理想や夢を抱くことがある一方で、それを一人で実現するのは難しいことがあります。コミュニティに所属することで、メンバーが互いに刺激し合い、アイデアを共有することができます。メンバーからの支援や励ましが、挫折せずに前進し続ける原動力となることもあり、それが社会的なインパクトにつながることもあります。

コミュニティ運営者が支援できること

どの欲求も、興味関心にフィットしたコンテンツ提供や、メンバー同士の知識や経験を共有するワークショップ等の開催でサポートすることができます。

他にも以下のような施策が有効でしょう。

  • メンタリング制度:経験豊富なメンバーが他のメンバーをサポートするメンタリングの仕組みを作りましょう。メンターとメンティの適切なマッチングができれば上記の欲求を満たせます。

  • 学習リソースの整備:コミュニティ内で役立つ情報やツールを集約し、メンバーがアクセスしやすい環境を整えましょう。

  • 外部との連携:他のコミュニティや組織との連携を深めることで、新しい情報や資源へのアクセスが可能になり、メンバーの視野が広がります。




③他者 × Being:他者とこうありたい!

他者 × Being:他者とこうありたい!

この領域に当てはまる欲求

  • 喜びや楽しみを共有したい:わたしたちは喜びや楽しみを誰かと分かち合うことで、その感情をより強く、豊かに感じられます。コミュニティに所属することで、同じ興味や関心を持つメンバーと感情を共有し、一体感や満足感を得ることができます。それが結果的にコミュニティへの帰属意識やメンバー同士の信頼関係にもつながります。

  • 悩みやモヤモヤを共有したい:わたしたちは何かしら悩みやモヤモヤを抱えながら生きています。コミュニティに所属することで、同じような悩みを抱える仲間と出会い、共感し合える場を得ることができます。安心感が得られ、ときには解決策も見出せるでしょう。その結果としてメンバーの悩みやモヤモヤが軽減され、前向きな姿勢が生まれていきます。

コミュニティ運営者が支援できること

定期的にテーマを決めて投稿やコメントを募ることで、様々な感情や考えを共有することができるでしょう。テーマはコミュニティ運営者が検討するのもいいですが、テーマ自体をメンバーから募ると盛り上がりやすいです。

他にも以下のような施策が有効でしょう。

  • 定期的な交流イベント:メンバーが楽しく交流できるような場を設ける。読書会、ゲーム大会、食事会など気軽なものがあるといいでしょう。メンバー同士の交流を深め、喜びや悩みを共有できる関係性が生まれます。

  • サブコミュニティ:共通の喜びや共通の悩みを持った小規模なサブコミュニティを立ち上げましょう。そこでしか話せない話題が出てきます。独特の熱量やディープな話題がコミュニティにとっての価値になります。

  • 匿名化:匿名の状態であれば普段言えないことが言えるようになるでしょう。コミュニティ全体を匿名化するという設計に限らず、単発のイベントやサブコミュニティだけ匿名化するというやり方もあります。




④他者 × Doing:他者とこうしたい!

他者 × Doing:他者とこうしたい!

この領域に当てはまる欲求

  • 他人の役に立ちたい:わたしたちは他者への貢献を通じて自分の役割や居場所を認識し、自身の存在意義を見出すことができます。コミュニティに所属することで、自分の知識や経験を活かして他のメンバーの役に立つことができます。家庭や会社とは違う側面の自分をコミュニティでは出せるという喜びもあるでしょう。

  • 自己表現したい:わたしたちは自分の思いや考え、感情を表現することで、自己を確認し、他者とのつながりを感じたいものです。コミュニティに所属することで、自分らしさを表現できる場や機会を得ることができます。他のメンバーから共感や評価を得ることで、自尊心が高まることによってこの欲求が満たされます。

コミュニティ運営者が支援できること

メンバー同士の関わりのなかでも特に少人数の場を用意することで、お互いの課題を共有してサポートする関係が生まれやすく、そこで小さく自己表現を始めることができます。

他にも以下のような施策が有効でしょう。

  • 社会貢献プロジェクト:メンバーが自分の能力を活かして社会貢献できる機会を提供しましょう。コミュニティのコンセプトやメンバーのモチベーションに合致したプロジェクトだとベターです。

  • 自主企画の推奨:メンバーが自分の関心や特技を活かして、企画やイベントを立ち上げることを奨励しましょう。その自己表現をメンバーや運営者も尊重することで、他のメンバーの自己表現の後押しになります。

  • ディスカッションの開催:ディスカッションを通じて自分の知識や経験を活かして自己表現もしながら他人の役に立つことができるでしょう。ファシリテーターの存在が建設的な意見交換やアイデア創出を実現します。




この研究成果の活かし方

コミュニティに所属する欲求について、4つの領域に分解し、さらにそれを9個に分けて分類してみました。

今回挙げた9つの欲求をマッピングしたものが以下の図です。同じ領域に当てはまる欲求も、軸の値が大きそうなものはより原点から遠い外側に置いてあります。

コミュニティに所属する欲求の分類

※「成長したい」「理想を実現させたい」は、「Being」と「Doing」の両方に関わるケースがあるので真ん中(縦軸上)に置いています。
※「自己表現したい」は、表現する自分とそれを受け取る他者がいて成り立つ欲求のため両者の真ん中(横軸上)に置いています。

こうした人間の心理的欲求を把握しておくことで、コミュニティ運営の一つひとつの打ち手がなぜ必要なのかを一層深く考えることができます。

もちろん、コミュニティやそこに集まるメンバーによっては全く違う心理的欲求が背景にある場合もあるので、あくまで今回提示したのは一般的な解ではあります。それでもある程度の汎用性はあるはずなので、ご活用いただけたらと思います!




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