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「ミュンヘン」

これはなかなか良かった。
スピルバーグはたまに社会派の作品を手掛けるが、基本的にエンターテイメントの人なので、見せ方がうまい。ずっと映画を作り続けている人というのは、衰えることがない。

「ミュンヘン事件」は、1972年9月に西ドイツのオリンピック開催期間中に、イスラエルのアスリート11人が殺された事件のこと。本作では事件が起こったあとの、イスラエルのモサドによる報復「神の怒り作戦」が描かれている。

モサドに暗殺されるテロリスト「黒い9月」のメンバーたちが、おおむね優し気な人々というのが興味深い。彼らには彼らの人生があり、モサドは彼らの穏やかな日々を踏みにじる。しかし、モサドが悪かというと、そもそも「黒い9月」の起こしたテロ事件が発端になっているのだ。
勧善懲悪の物語にしなかったところにスピルバーグの知性を感じる。

本作は、人と人のつながりに関する作品だ。政府や家族といった様々な組織がでてくる。そういったものは、利害関係がある。理由があってつながっているのだ。理由があるから殺し合い、理由があるから大切にする。
ここで思い出すのは、「すべてのものは有機的につながっている」という言葉だ。「ミュンヘン事件」を起点として、さまざまな有機的なつながりが示される。敵も味方も、さまざまな形でつながっている。
作品の中ではたくさんのことが描写されずにいる。ただ、それはこの作品の欠点ではなく、むしろ世界の広さを表現する効果を出している。


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