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「ウエスト・サイド・ストーリー」(2021年)

「アイデアとは既存の要素の組み合わせである」というのはよく言われることだ。
本作はシェイクスピアの「ロメオとジュリエット」にアメリカの人種問題を絡めたところに巧さがある。
さらにこのスピルバーグ版が公開された2021年当時のアメリカは人種問題が大きく取り上げられていた時期でもあった。
そういう点でも、スピルバーグのセンスは洗練されている。

物語としては、アメリカのニューヨークのウエスト・サイドで、ポーランド系アメリカ人のジェッツとプエルトリコ系アメリカ人のシャークスが抗争を繰り広げている。ジェッツのメンバーで刑務所から戻ってきておとなしくしているトニーは、現リーダーのリフから、グループに戻ってくるように誘われるのだが、イマイチ踏み切れない。それでも、彼らが参加するダンスパーティーに参加してみたところ、マリアというプエルトリコ系の女性に出会う。マリアはシャークスのリーダーのベルナルドの妹だ。ベルナルドが妹とトニーの交際をみとめるわけがない。これが悲劇のはじまりだった。
というもの。

ストーリー自体は「ロメオとジュリエット」なので、オリジナリティ云々というものではない。むしろ見どころは、誰もが知っているストーリーをいかに面白く見せるかというところだろう。
本作は歌と踊りが見事なだけでなく、映像がとにかくすごい。派手なCGがあるわけではなく、あくまでも日常を舞台とした作品にもかかわらず、映像の作りが超絶技巧だ。すべてが制御されていて、どうやるとこういうものができるのかわからない。一点の乱れもない完璧な映像だ。こういうところを見ると、やっぱりスピルバーグはビジュアルの人なのだという認識を新たにする。

なお、オリジナルを観たことがないので、どこがどう違うとか、現代風にアレンジされているかどうか、といったところはわからない。
製作費は147億円で興行収入が111億円なので、赤字である。これは映画業界がパンデミックからの回復を目指していた時期だったことや、「ヴェノム2」や「シャン・チー」といった作品は人気があったが、本作のようなおとな向けの作品は人気が低かったという事情もあるようだ。

観終わってから、シーアのPVで有名なマディー・ジーグラーが出演していたことに気づいて観返したのだが、ちゃんと映っていたのは1シーンだけで、踊っていなかった。セリフつきのエキストラみたいな扱いで、ファンとしては残念。

それはともかく、スピルバーグは毎年1本は公開してるんじゃないかっていうくらい作品を作り続けているのがすごい。それだけに腕が落ちないのだろう。そして、もう77歳だというのに、本作のような若い恋人たちが直球の純愛を文字通り歌い上げる作品を撮れるという、精神的な若さにも感動した。とにかく作り続けることで洗練されていく。そんな当たり前のことに気づかせてくれたことに感謝したい。

https://www.youtube.com/watch?v=QgxPtRinb0o&t=1s

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