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「素数たちの孤独」(2008年)

なかなかおもしろかった

「素数は1とそれ自身でしか割り切ることができない。自然数の無限の連なりのなかの自分の位置で素数はじっと動かず、他の数と同じくふたつの数の間で押しつぶされてはいるが、その実、みんなよりも一歩前にいる。彼らは疑い深い孤独な数たちなのだ」と本文には書いてある。
そして、孤独には『積極的な孤独(Solitude)』と『消極的な孤独(Loneliness)』があり、原題では前者が使われている。

主人公はふたり。アリーチェという少女と、マッティアという少年。
アリーチェは拒食症で、マッティアは数字の天才。
子どものころ、アリーチェはいじめにあっていた。そしてマッティアは発達障害の妹を公園に置き去りにしたことがある。妹はそのまま行方が知れず、マッティアはいつもそのことを後悔している。

アリーチェとマッティアは出会う。恋愛感情はあるのだろうか。それもよくわからないが、特別な関係ではあるようだ。ふたりはそれぞれの道を歩む。それでも完全に疎遠になるわけではない。

イタリアの小説なのだが、ラテン系の情熱的な空気はまったくなくて、むしろ白夜のような寒々しいイメージがつらぬかれている。これでイタリアでは200万部売れたというのだから不思議なものだ。
恋愛小説として紹介されているのだが、首をかしげたくなる。これは恋愛なのだろうか。
むしろ、孤独な人間たちが自らの生きる場所を探して彷徨う物語のように思う。そこには恋愛の要素もあるのだが、「素数たちの孤独」というタイトルからして、推して知るべしというところ。

登場人物たちの気持ちというか、素数として生きる感覚はよくわかった。誰でもそうなんじゃないかと思ったが、よくよく考えてみると誰もが素数なのではなく、合成数もいるのかもしれない。そして小生は合成数の気持ちはわからない。うまいタイトルだ。素数はどこまでも孤独な素数なのだ。



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