短歌史に関わるということ(前半)【再録・青磁社週刊時評第七回2008.7.28.】

(青磁社のHPで2008年から2年間、川本千栄・松村由利子・広坂早苗の3人で週刊時評を担当しました。その時の川本が書いた分を公開しています。)

短歌史に関わるということ(前半)   川本千栄

 「短歌研究」七月号所載の座談会「若い歌人の現在」を面白く読んだ。若い世代が口語・私性・短歌史・作歌の場などの問題についていかに真剣に考えているかがよく分かり、頼もしい限りだと思った。参加者の年代とその主な活動の場は、野口あや子、二十代前半、結社所属。吉岡太朗、二十代前半、大学の短歌会運営。石川美南、二十代後半、同人誌など。奥田亡羊、四十代前半、結社所属。そして司会は加藤治郎である。奥田はやや年配であるが、彼が明確な問題意識を持って常に話題をリードしていたことで読み応えのある座談会となっていたし、また、二十代三人の活動の場がそれぞれ異なるのも面白いと思った。これをネットにも結社にも詳しい加藤が司会していたため、議論がバランスのいいものになっていた。

加藤 私たちの世代というのは例えば岡井隆塚本邦雄寺山修司を含めた前衛短歌を踏まえていると明確に言い切ることができた。皆さんの世代は、なかなかうまく言いにくいのかなと思っているんです。もちろん吉岡君のように短歌史は関係ねえんだというのもいいと思うんだけどね。何か一言で言い切れます?今、自分は何を踏まえているんだというときに。
石川  …今までの短歌全体を吸収したところで、じゃあ自分は何を書いていくかという意識は確実にあります。ポスト・ニューウェーブという表現が正しいかわからないですけど、ニューウェーブという時代をきちんと語るべきなのは私たちかな、という思いもあります。…
奥田 今、加藤さんが前衛短歌を踏まえて自分たちはやっていたという話をされたんだけれども、名前が挙がったのは塚本邦雄岡井隆寺山修司ですよね。でも前衛歌人はその三人だけではなかったはずです。例えば前衛短歌運動の参加者を十人挙げるとすれば誰を挙げるか。…
野口 その三人くらいしか私も浮かばないですね。
奥田 …それ以外に春日井建が入ったり、葛原妙子が入ったり。で、あと五人、どうしましょう?前衛短歌運動というのは何だったんだろうというのは、絶対問わなければいけない。そこからしか出発点がないわけですね。…

 奥田はこの後、前登志夫山中智恵子の名を挙げ、彼らは「私」の変容をさせながら原初的で神話的な世界を開いていった、それも前衛短歌運動の大きな成果だったと述べる。この発言は、前衛短歌運動を修辞の面でだけ捉えるまとめ方に、異議を唱えているのである。奥田のように、「前衛短歌運動の影響を受けたが、その当事者で無い」立場の者によって、前衛短歌運動とは何だったのかという考察がもっとなされるべきだと思う。そしてそれはまだあまりなされていないとも思う。
 同じく、石川が述べているように「ニューウェーブの影響を受けたが、その当事者では無い」立場の者によって、ニューウェーブについての考察がもっとなされるべきだろう。

(続く)

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