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『塔』2020年6月号(1)

①6月号は5月号同様、ものすごくたくさん付箋がついた。少しずつでも全部に触れたい。

生きてればそれだけでいい ガラス戸に綿菓子のやう蜘蛛の卵は 渡邊美穂子 病気になったり今回のコロナ禍のような出来事に遭遇する度に、この上句のように思う。(喉元過ぎればすぐ忘れるが。)儚く見えるが命がぎっしり詰まった蜘蛛の卵が上句の気持ちを増幅する。

④魚谷真梨子「子育ての窓⑥」〈今見返すと、ほんとうにこんなことをやっていたのかなあ、と思う。もう、このときの記憶がほとんどない〉1日に10回の授乳と22回のオムツ替え。朦朧…。換えた瞬間のオムツに爽やかに排泄されたり。私もこの時期育児記録をつけ始め、今も日記が続いている。

⑤永田淳 評論「一首で読むか、一連で読むか」〈しつかりと飯を食はせて陽にあてしふとんにくるみて寝かす仕合せ 河野裕子  河野裕子の子育ての歌、として広く人口に膾炙してゐる一首…〉しかし、一連で読むとこれは子育ての歌とは取れない、と続く。ですよねー!?私もこれは思ったわ。

雪ふらず冬は終はれりいちどきりいちどきりなるさよならもせず 澄田広枝 雪が降らずに終わった冬。終わりも分からない、中途半端なまま。そしてさよならもせずに別れてしまった相手。せめてさよならを言いたかった。気持ちのケリがつかないのだ。「いちどきり」の繰り返しが辛い。

今はもう無い国もある地球儀を棚から下ろしきれいにふいた 落合優子 二句がいい。ソ連、ユーゴスラビア、チェコ=スロバキア、西ドイツ、東ドイツ…。そんな国の載る地球儀をきれいに拭いた。自分の物かも知れないが、もうこの部屋にいない、巣立った子供の物と取れば上句と響き合う。

ずっと死にたかったのですと言いながらホットケーキを注文しおり 中山悦子 とても印象に残った一連。「死に/たかった」の句跨りが耳に残る。これから始まる話と、ホットケーキという量感のあるおやつの組み合わせ。聞く姿勢にいながらも、観察する作者。場面の切り取り方が小説的。

2020.6.27.~29.Twitter より編集再掲