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『短歌研究』2021年2月号(2)

⑥松岡秀明「光をうたった歌人」アーサー・フランクの病む人間の語りについての論を紹介。それも興味深い。その中で「混沌の語り」にあたる明石海人の歌を読む。

 〈筆者が最も強い印象を受けたのは、九首めの「死にかはり生れかはりて見し夢の幾夜を風の吹きやまざりし(明石海人)」である。輪廻転生を繰り返して見る夢のなかでは風が吹き続いているというのは、なんともそら恐ろしい物語である。〉病む人間の語りの中でも比較的冷静な「探求の語り」の歌が今まで紹介されていたが、今回の「混沌の語り」の歌は圧倒的で言葉を失う。どの歌にも詳細な読みが付され、海人の歌を深く味わえる。

「語り」は「ナラティブ」の訳か。フランクの著書にも興味をそそられる。

⑦花山周子「短歌時評」〈(歌集書評は)著者にとってみれば市場での評価がそもそも得られない以上、書評が唯一の公の評価ということにもなる。〉これは従来の歌集評の姿だ。短歌総合誌に載る書評以外に、例えば新聞等の読書欄に歌集の書評が載ることはまれだ。

しかし、〈最近は短歌を取り巻く状況はずいぶん変わってきている。(...)一般的な書評の役割が歌集にも該当するようになっている。〉という現状分析を踏まえた上で〈書評を消費文化の宣伝的な役割から解放し、批評形式として自立させたい〉という問題意識から現代短歌社のBR賞が創設されたと書く。

〈座談会は書評を賞としていかに成立させるかという渦中そのものが大変スリリングで、書評を書いたことのある身としては(…)飛んでくるブーメランに深手を負いながら読み進めた〉花山と同じ気持ちで私も読んだ。現在を過渡期とするのにも賛成だ。書評を書く書かれる、その問題点を抉り出した文だ。

⑧千葉聡「俵万智歌集『未来のサイズ』」〈私はドラマ「万智ちゃん!」のあらすじを語った。(…)ドラマとして成立させるため「(…)万智を支えてくれる青年」を登場させ…〉これは何だろう?少なくとも文の前半は歌集評ではない。人の歌を評する場で自分のアイデアを語っている。

⑨吉川宏志「品田悦一著『万葉ポピュリズムを斬る』」〈時代や国境を文学は超越するのだ。そんな古人の認識と比べれば『万葉集』は日本人だけのものだ、という考え方がいかに偏狭なものかがよく分かる。〉品田の論の読みどころを丁寧に捉えた文だ。連載時に品田の論を読んだが、再読したくなった。

2021.2.21.~22.Twitterより編集再掲