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藤沢周『世阿弥 最後の花』(河出書房新社)

 時の将軍足利義教の勘気により無実の罪で佐渡流刑になった世阿弥元清。過去に同じように佐渡に流された順徳上皇の恨み憎しみがまだその地に残っていることに気づき、鎮魂のために新作の夢幻能を奉納する。芸、芸術は本来、神に捧げるものだったのだ。能という型に沿って舞う時に己が消え、演じる人物に憑依し憑依される様子が描かれる。いかに己を消すか。本書中に多用される和歌にも驚く。和歌と能、型のある芸において表現者がいかに表現するか。「花なる美は十方世界を変えましょう」、という言葉にも表されている。
 引かれていた歌の中で一番好きな歌と著者による訳を挙げる。

かれ果てむ後(のち)をば知らで夏草の深くも人の思ほゆるかな 凡河内躬恒 〈いずれは別れてしまうかも知れぬというのに、夏草が秋に枯れるのも忘れて繁るように、先も思わず恋をしてしまった。〉ストーリーの中での明るい恋に添えられた歌。中世和歌的喩が魅力。

河出書房新社 2021.6. 本体2000円(税別)2200円

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