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『歌壇』2020年11月号

①今月の表紙は銀杏の黄葉。今年の歌壇の表紙はどれもきれいだったな。(まだ今年終わってないけど。)特にコロナであんまり外出も出来なかったから沁みた。

祖父の撮つた母の若き日 戦時また日常として日常ありき 香川ヒサ 古い写真を見ている作者。母が亡くなったという歌が前後にある。祖父ももちろん故人だろう。家族の写真を撮るという、日常の一コマが戦時にもあったことを教えてくれる写真。『この世界の片隅で』と同じ空気感。

③三枝昻之「追悼・岡井隆論」とても興味深く読んだ。論点が整理されている。時代の中で一人の歌人を鮮やかに描き出していると思う。歌の選びも良く、ここ何ヶ月か読んだ岡井論の中で一番ぐっと来た。分かりやすくて、深いというところ、すごい。

④「私の選ぶ岡井隆十首」これだけ多くの歌集を出した岡井隆の歌だが、結構選びに被りがある。こうして名歌というのは定着していくものなのだなと思う反面、その人しか選んでいない歌を読むのもまた楽しい。

⑤大井学「暗黙を超えて~「歌人」は誰か?~」〈それはすなわち、先に、(1)(2)として展開した作品解釈の方法が、枠組みとしての限界をとうの昔に迎えていたのではないかという危惧です。〉その危惧は私も感じている。では次なる作品解釈の方法は?

〈詩歌の本質が世界認識の更新であってみれば、その暗黙のバイアスを破壊することこそ(・・・)作品の背後にいる「歌人」という存在者を現出せしめるための前提です。〉前に挙げた疑問の答えだろうか。バイアスの破壊←自己チェックによる、と取っていいのかな。そう取ればこの次の文にも繋がる。

自分で自分のバイアスを破壊するにはどうすればいいのか。〈詩歌の本質が世界認識の更新〉とは、詩歌を読むことによって、認識が更新される、つまり何らかのバイアスの破壊が行われる、ということなのだろうか。〈であってみれば〉の解釈に迷う。

わが店に売られしおもちゃのショベルカー大きくなりてわが店壊す 三原由起子 故郷の実家が解体される。東日本大震災の被災を詠い続けてきた作者。この歌も後の日々を詠った一連の中にある。日本人の本性を抉った鋭い一連だがこの歌はもっと歌柄が大きく、象徴性さえ帯びている。

2020.11.9.~11.Twitterより編集再掲