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河野裕子『ひるがほ』1

 河野裕子の第二歌集『ひるがほ』の一首評を時々書いていきたいと思います。全ての歌に付箋を貼りたくなる。落ち着け自分。

わが裡の何を欲りせる抱擁の泳ぐやうなる腕の形よ 性愛の歌と取った。愛し合う刹那、自分を抱く相手の腕の形が泳ぐようだとの思いを持った。この人は私の中の何を欲しているのだろうか、何がこの人をこんなに夢中にさせるのだろうか、とどこか冷静に考えているのだ。

先をゆく白シャツの背の青むまでめぐり若葉の椎群落よ 自分の先を歩いて行く相手は白いシャツを着ている。その背が青く見えるまで、自分たちの周りの椎の木々の若葉の色がシャツの背に映っている。椎の音は思惟にも通じる。木々を渡る風さえ感じられる、自然との一体感。

まがなしくいのち二つとなりし身を泉のごとき夜の湯に浸す 「真愛し」は、たいそういとしいの意。妊娠して自分以外の生命が体内にある、その身体がとても愛しいと思いながら入浴している。愛しいに加えて、悲しい気持ちもあるように思う。命の持つ悲しさのようなもの。

2020.10.4.~5.Twitter より編集再掲