戦後短歌再考の機運(前半)【再録・青磁社週刊時評第五十七回2009.8.3.】
戦後短歌再考の機運(前半) 川本千栄
(青磁社のHPで2008年から2年間、川本千栄・松村由利子・広坂早苗の3人で週刊時評を担当しました。その時の川本が書いた分を公開しています。)
去る7月12日、東京において「今、読み直す戦後短歌Ⅰ」というシンポジウムが行なわれた。主催者の一人である花山多佳子の説明によると、戦争が終わってから64年の年月を経て、戦後短歌の担い手たちが次々に他界している、今、もう一度戦後短歌を見直しておかなければ短歌史的な繋がりに大きな欠落ができるのではないか、そうなってはならない、という主旨の元に、結社も考え方も様々な6人の歌人が集まり、このシンポジウムを行なうことになったということである。歌壇における久しぶりの大きなイベントという印象であった。渡された名簿によると参加者は208名という大変な人数である。
まず、花山多佳子・秋山佐和子・今井恵子・西村美佐子・川野里子・佐伯裕子の6人がそれぞれ20分前後のミニ講演を行なった。そのあと、各講演に対して一時間ほど合同討議を行い、最後は会場との質疑応答、というプログラムであった。
こうした結社の枠を越えた一つのプロジェクトチームの発生をとてもうれしく、心躍るような気持で私も聴衆の一人となった。超結社の歌会は各地で行なわれているが、有志による超結社でのシンポジウムというのはここ数年あまり無かったのではないかと思う。歌壇というのも一つの狭い世界なので、結社の枠に収まることなく、歌壇としての文化の継承というのを考えてもいいのではないか。この会は、そうした継承への大きな一歩であると感じられた。
いくつか細かい点と、気になったところを挙げておきたい。
各講演のテーマは、花山多佳子〈戦後の表現の模索-森岡貞香を中心に〉、秋山佐和子〈私の歌、公の歌-柳原白蓮と戦争〉、今井恵子〈歌うことの意味-生方たつゑに触れて〉、西村美佐子〈15人の女性歌人たち-S27年の「短歌研究」作品から〉、川野里子〈空間変化としての戦後-斎藤茂吉と葛原妙子〉、佐伯裕子〈「敗戦後」という出発-斎藤史、森岡貞香を中心に〉というものであった。
このように、各論者の問題意識は様々であった。「戦後短歌」という大きなテーマはあるものの、戦後という枠組みは意外に茫漠としていて話題が拡散し勝ちなものだということを感じた。
(続く)