『歌壇』2020年7月号
①なかぞらにとどまる蜻蛉の翅見えず守秘義務強いる現場に臨む 平山繁美 あるのに見えない蜻蛉の翅のように、語ってはいけない情報がある。看護師として多くの語れない事情に接したのだろう。下句の重い事実を上句が昇華している。
②それは嘘 すかさず言うほど若くなく首傾けて微苦笑したり 桜川冴子 若い頃は相手の発言のおかしなところをすかさず突いていたのだろう。でもそれが人間関係の軋みを招くことも知ってしまった。微笑みでその場をやり過ごす。でも相手の発言の矛盾を突く気持ちは、苦笑に現れている。
③「特別鼎談」堀本裕樹〈和歌という雅なものがあって、そこに俳諧という鄙びが出て来た。和歌の反措定として俳諧、のちに俳句となっていくわけです。〉これはその通りなんだろうけど、この図式からは狂歌が抜け落ちてるように思う。
④「特別鼎談」東直子〈〈冬晴れの天よつかまるものが無い〉も死刑囚の作品です。いつか処刑されることがわかった人として読むからこそ、迫力があるのか。そういうものが無くても、作品として読めるのか。〉この俳句すごく胸に迫る。読み慣れないので印象でしかないが、作品の力と思う。
⑤「特別鼎談」東直子〈ミックス文体というのが短歌の表現にもあるんです。一首の中で、文語、口語がはっきり分かれていたが、最近は文語交じりの口語の歌とか、やってます。〉これは疑問。いかにもな文語と口語を一首の中でぶつけて味わいを出すのは分かるが、文語と口語がはっきり分れていた、というのは言えないと思う。文語だけの短歌なんて無理じゃないかな。文語というのは常に口語と交じったミックス語でしかないと思う。文語短歌と言っているものの文語は、どの時代の文語ですか?と思う。最近交ぜてるっていう、その最近っていつぐらいのこと?とも思うし。
⑥今井恵子「存在への問い 富小路禎子」とても読み応えのある文章だった。禎子の人生と歌が過不足無く描き出されていて、その人生にちょっと感動。「つるされてかく宙にゐる吾のさまぶらんこの上なれば誰も嗤(わら)はず 富小路禎子」挙げられていた歌の中ではこれが最も心に残った。
2020.7.6.~7.7Twitter より編集再掲