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『短歌往来』2020年10月号

向けられしが感謝と敬意なればこそ拒めざるまま強ひられゆかむ 久我田鶴子 コロナ禍の現場で医療従事者として働く人々へ向けられる拍手。向けてるのは感謝と敬意なんだけど、だからその労働を継続して下さい、ということなのだ。「強ひられ」が本質を突いている。

読んだそばからつぎつぎ忘る棒線を引いてノートをとりたることも 佐藤通雅 ここに仲間がいた…。この本読んだっけ?は日常茶飯事で、線を引いてノートを取ったことまで忘れる。滅茶苦茶勉強した跡のある昔の資料が出て来て、調べたことさえ忘れてて、愕然としたことも何度も。

 一番衝撃的だったのは、大学時代のフランス語の教科書が出て来た時だったな。余白にびっしり単語の意味と文法が書き込まれてて、まるで大学受験生のノートみたいなのに、今ボンジュールしか言えないのはなぜか考えたわ。あの時、脳は若かったはずなのに。

わが事よりひとを気遣ふ習ひなるせつなき言葉「元気でゐてね」 桑原正紀〈妻は依然として脳障害が残っているので、現状認識力が弱く、新しい記憶もとどめない。〉そんな状態でありながら、自分よりも人を気遣う妻。かなしい、と心温まる、が相半ばするような読後感。

④特集「介護のうたの現在」歌人という区分に限っても、こんなに多くの人が介護に関わっているという事実。しかも、これ以外にも介護の歌を詠んでいる歌人は多いし、介護していても歌に詠んでいない歌人もいるだろう。一体どれほどの人が今この国で介護に関わっているのだろう。

2020.10.2.~3.Twitter より編集再掲