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おはなし

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#創作大賞2023

冒険譚のラストシーンにて -4-

冒険譚のラストシーンにて -4-

▲▲▲

炎の消えた闇のなか、新月のような色をした鱗が煌めく。
竜が口を閉じて父と敵将に向き直っても、竜の恐ろしい咆哮はいつまでも街に木霊していた。敵将が悲鳴を上げながら自軍の方へと駆けていく。

じっと父を見つめる竜。それを呆然と見ている父。

竜はその長い首を僅かに下した。
他の者には、威嚇のように見えたかもしれない。だが私と父には解った。
見覚えのあるそれは、あの竜の「別れの挨拶」だった。

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冒険譚のラストシーンにて -3-

冒険譚のラストシーンにて -3-

___長い長いうたた寝の後。諦め悪くいつまでも瞼を閉じていたが、すっかり優しい白昼夢は過ぎて行ってしまった。仕方なく瞼を開ける。夢と同じ景色が目に飛び込んできて、一瞬現実と夢の境目で迷子になる。首を軋ませながら地面を見下ろすと、そこに男とファリアだけがいなかった。

薄情なことに、わたしの白昼夢にはすっかり竜の仲間たちは出てこなくなった。代わりに男やファリア、時には顔も知らぬファリアの母も一緒に、

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冒険譚のラストシーンにて -2-

冒険譚のラストシーンにて -2-

△△△

名を呼んでやってくれるか。
そう言って男が、この世で一番重要な宝物でも隠しているんじゃないかと思えるほど大切そうに抱えている、布の塊を揺らす。男のささくれだった無骨な指があまりに優しく動くから、わたしは息を止めてそれを見ている。柔らかい布をすこしずらすと、そこからちいさなちいさな、頬と手がのぞく。その薄い皮膚に生えている産毛が、まだ低い位置からさしている陽の光を浴びて金色に輝く。

” 

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冒険譚のラストシーンにて

冒険譚のラストシーンにて

あらすじ

竜は、植物であった。陽の光で躰を洗い、雨で喉を潤し、風で腹を満たし、食物連鎖のどこにも括られず、欲がなく、たいした思考もせず呼吸し、牙と巨躯と翼とをもつ、ただの巨木も同然だった。
___人間たちに棲み処を荒らされて最後のいっぴきとなった竜。永すぎる命に苦悩する竜は、ある男との出会いで「植物ではない何者か」に、なろうとしている。

冒険譚のラストシーンにて

_____ 確かめるような、

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