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その赤い花は厄災か祝福か(月一フォトエッセイ)

ビルの屋上に大きな猫がいた。その猫は、空を流れながらもくもくと膨らむ入道雲に猫パンチを連発している。すると雲はたちまちちぎれていって、群れを成すひつじ雲へと姿を変えた。遊び疲れたのか飽きたのか、その猫が丸くなって眠りにつくと、日差しが少しだけ柔らかみを帯びた。

また別の日、とある公園でまったく同じ猫を見た。その足元で猫を見上げる。大きくて、その分さらにモフモフしている。不意に猫がにゃあと鳴いた。すると近くに咲いていたひまわりが一斉に頭を垂れていき、代わりに彼岸花が次々と花を開き始めた。

僕が見てきた光景は、どうやら四季を司る神様の仕事風景だったらしい。今年、夏の暑さがなかなか終わらないのは、この神様が気まぐれだからか。猫ならしょうがないか。猫が突然ごろんと横になり、またにゃあと鳴く。惹きつけられるように猫のおなかにもたれて座り、ゆっくりと目を閉じた。とても心地が良い。

神様が本当にいるのだとしたら、人の姿をしていてほしくはない。そもそも形がない存在で、この現世に姿をあらわすために何かの形を得る必要があるのだとしても、人の姿を採用してほしくはない。そうでなければ神様すら現実にすぎないのか、とがっかりしてしまいそうだから。

現実はいつも禍々しい色をしている。生きているだけでお金がかかるし、だから何もしたくなくても何かしなければ生きていけない。そして生きていく限りそこには他者との関わりがあって、どうしてもうまくいかない瞬間が望まずとも多々生まれる。

ときにつらく苦しく思いながら、それでも生きることに紐づけられた命。ならばその道をゆく中、厄災の類すら祀れば神様になるこの国で、一体何をどう信じて生きてこうか?善神であれ邪神であれ、おそらく誰の心の中にも神様はいる。多かれ少なかれ、誰もが何かを信じ、願い、祈り、生きている。

目を覚ますと、もうそこに猫はいなかった。振り返ると大きな彼岸花が一輪咲いている。いつのまにか猫のおなかではなくて、その花にもたれて眠っていたようだ。

彼岸花は、死人花だとか地獄花だとか不吉な別名を持つ一方、サンスクリット語で「天界に咲く花」を意味する曼殊沙華とも呼ばれる。この大きな彼岸花は、あの猫が残していった厄災か、祝福か。それとも、どちらの意味を持たせるかは、この自分の命次第なのだろうか。

どこか遠くから、それでいてとても近くから、またにゃあと聞こえた。










































折本配布のお知らせ

みんな元気にしてますか?もう八月も終わりだというのに、暑い日々が続きますね。こういうときは無理をせず、よく寝てよく食べるに限る。アイスおいしい。

さて、ただいまコンビニのマルチコピー機の「ネットワークプリント」を使い、上記の文章と写真から抜粋して作った折本を配布しております。カバンの中や手帳のあいだに潜ませて、心を鎮めたいときや一息入れたいときなどにパッと開いてみてはいかがでしょうか。


折本とは?

一枚の紙をカンタンに折りたたんで作る本のこと。A4サイズの紙の片面だけに全ページを印刷し、皆さんの手でちょっと切り折りしていただくだけで小さな冊子が完成します。

ネットワークプリントの利用方法

お近くのコンビニにあるマルチコピー機をご利用ください。A4サイズのカラー片面印刷で1枚60円(こちらは印刷代で、私の収益にはなりません)。フチ・余白・ちょっと小さめ設定は「なし」推奨です。

配布期限が一週間程度となっているので、ご希望の方はお早めに!


◇セブンイレブン
予約番号:69332048
(2023/10/04 23:59まで)
利用法はこちら↓


◇ローソン・ファミリーマート
ユーザー番号:HLWB99BJW5
(2023/10/05 18時頃まで)
利用法はこちら↓


折り方

一か所だけカッターで切れ込みをいれる必要アリです。



月報

初めて新型コロナウイルスに感染した。症状が治まってからもう二週間は経つのだが、いまだに咳が出る。かなりしんどかった。38~39度の発熱が二日間続いて、いったん平熱まで下がってから再び37度台の微熱が二日間。のどの痛みやリンパの腫れ、咳や痰、あとは謎に平熱になってからの異様な発汗があった。味覚もしばらく鈍感になって、平熱になってもなかなか食欲が出なかった。

写真を撮りに行こうと思っていた時期にそんなことになって、体力が回復してきた頃からアルバイトが忙しくなって、今月は本当にダメダメだ。何もできなかった悔しさばかりが残っている。家にこもっていた一週間ですっかり空模様も秋になってしまった。もう何もかもダメだ。新型コロナなんてかからないに越したことはない。

職場のちょっと年上のおねえさんが、ゴホゴホ言っている私を見て背中をさすってくれた。さらにのど飴をたくさんくれた。やさしい、やさしすぎる。下手したら泣いちゃうかもしれない。

先月行ったエルマーのぼうけん展で、完売につき現地で買えず予約だけしてきたりゅうのぬいぐるみがついに届いた。とってもカワイイ。龍と言われて多くの人が想像する姿とはちがうであろう、鮮やかなカラーリングに大胆な模様。『エルマーのぼうけん』を読んでいた子どもの頃より、大人になった今のほうがこの発想力に感服する。頭の中ぐらい自由にかつ柔軟にあり続けたい。


今月のプレイリスト

夏の終わり/森山直太朗

スキマスイッチ/Revival

アイナ・ジ・エンド/Red:birthmark




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