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「形」を自分から取り払うー『水を縫う』ように

小説を中心に感想を時々記します。

「好き」と「家族」を自分の手で選び取りたい。

「水を縫う」寺地はるな 集英社

縫物や刺繍が好きな高校生男子・清澄、ふんわりした服やかわいいものを嫌がる姉・水青、離婚後女手一つで子供を育てる母、それに祖母や、別れた頼りない父…みな世間から「普通」と言われるものから少しずつずれている。

もうすぐ結婚する水青は着たいウェディングドレスが見つからない。どれもひらひらキラキラしていていやだと。

それを聞いた弟・清澄が「僕が作ろうか」と言い出す。そんな清澄を心配する母。手伝う祖母。だがウエディングドレスはなかなか進まない。


「普通」にとらわれなくていいという人は多い。そう言いながら、たとえば自分の息子が「ピンクのランドセルがほしい」と言ったら反対し、娘が「ライダーベルトがほしい」というとあわてる。

作者はそれを否定しない。柔らかく肯定していく。

一方で、自分のやりたいことが世間の普通と違っていても、やっていいのだと伝えてくれる。

いじめにあわないか、友達ができないのではないか、そんな心配もわかる。

いじめや仲間外れは困る。だがそのために自分を偽ると、その時はよくてもいずれとても困ることになる。その時に偽ったことで、自分を見失ったり、ずっと心に不満を抱えることになる。自分ではない人生を歩むことになるかもしれない。今はそんな人がとても多いと思う。

清澄は高校の自己紹介で「縫物が好きです」という。勇気というよりも正直に。手芸部に入ろうかという。

私はそんな清澄に心惹かれる。

自分の息子だったらどうか。デザイナーには男性も多いからいいのでは、と思ったがその考え方自体が違う気がする。男性がいるからいいというわけではないのだ。

保育士、看護師、美容師、女性が多い職場が変わってきている。男性が増え、受け入れられつつある。それは切り開いた人がいるからだ。

女性が板前、現場監督、運転士になったように。

だからいい? そうではない。彼はまだ高校生で、将来のことを考えているわけではない。父親がデザイナーだが、そのせいでもない。

彼は好きなことをやりたいのだ。刺繍や縫物はやっていて楽しい、調べていて夢中になれる。だからやりたい。

私もやっていて楽しいことをやりたい。自分が夢中になれる、おもしろいと思えることを勉強したい。これからも勉強したい。

noteを読んだり、書いている人は同じように考えているのではないだろうか。私の好きは何だろう。私のやりたいことは何だろう。探しながら、考えながら進んでいく。

「水を縫う」は少しずつ自分らしさを見つけていく。それぞれの言葉や視点がとてもやさしい。


もう一つ、新しい家族の形もある。

母、息子、娘、祖母と、別れた父親を結ぶ人物として黒田がいる。彼は父親の友人で、父親と家族を細い糸でつなげているような存在だ。独身の彼の「家族」はだれか。これは読んでほしい。

今「家族」の形も揺らいでいる。親子とか結婚以外の家族があっていい。そういう小説がふえているのはとても納得できる。

「好き」を素直に求めよう。

そして自分の「家族」の形を考えよう。

読後、美しい水の光がこぼれる。



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