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雑草という草がないように、雑用という仕事はない

ある年の新入社員に細々とした仕事を頼んだら「今日は雑用ばかりだった」と研修日記に書いていた。でも雑用じゃない。それは普通の仕事なのだ。

数年前のこと。いつも新入社員を迎える時期。
新入社員には研修期間があり、部署をいくつか回っていた。
研修期間中の新入社員はまだ「お客様」で、わかりやすくておもしろそうな仕事に連れて行くことが多かった。発表会などのイベントとか、撮影などの、華やかな場所だ。

でもその時、とある部署は大仕事が終わって、仕上げの時期だった。
そこに新入社員が来た。これは私ではなくて、同僚の話だ。私は隣の部署で、見ていただけだ。

言い渡された仕事は、本を送るリストの確認、だれがどの記事を書いたかをリストにすること、大きな本を送るための包装だった。

その前にいた部署では、撮影に同席した。カメラマンの声かけを聞きながら、ポーズを決めていくモデルを見て「目がキラッと輝く瞬間を撮るんですね!」「声をかけながら、気持ちを盛り上げていくのがすごいと思いました」などの、興奮が伝わる研修レポートを書いていた。

新入社員は3人いた。男性が二人に女性が一人。3人とも戸惑った様子で、仕事に向かった。リストの確認をそれぞれがやるか、みんなでチェックし合うか、小さい声でぼそぼそっと話し合う。
ちらっと先輩社員を見るが、聞かなかった。3人で一緒にやることにしたようだ。

それが終わって、次に記事を書いた方の確認作業にかかる。これは各々が取りかかる。
時々「え~、これ何?」「これってさ、どういうこと?」というささやき声が聞こえる。
周囲も気にはしていたが、みんなそれぞれ自分の仕事に忙しかった。3人で解決しようとしている彼らに声をかけなかった。

最後に包装にかかった。大きな本を送るための特殊な段ボールの梱包材があり、それに包んで送る。その前の作業に時間がかかって、ちょっと3人はあわてていた。決められた冊数を一生懸命包んでいく。

私はたまたまずっと隣で作業をしていた。

3人はかなり速いスピードで最後の仕事を終え、一人が先輩社員を呼びに行った。「疲れたね」というつぶやきが聞こえた。

ここで私は作業を終えて隣から去った。

この後の話は数日後に同僚から聞いた。

「レポートには“雑用をやって忙しかった”って書いてあるんですよ。“こんなに雑用があるんですね”とか。みんな雑用雑用って書いていて。
でも、これは全部、雑用じゃないんですよ。仕事なんですよ!」
とその同僚は叫んだ。

うんうん、わかる。
全部大事なことだよね。
本を送るリストが間違っていたら、お世話になった方に本が届かない。これはとても失礼なこと。
誰がその記事を書いたかをリスト化することで、表記の確認をし、台帳を作る。お支払いをするときに見るし、次にお願いするときに参考にする。
本を送るのはお世話になった方への当然のことでもあるし、仕上がりを確認してもらうことだ。

「しかも」と同僚は続けた。
「全部、仕事が雑なんですよ」
「う~ん、雑用だと思っているからだね。どれも大事なことなんだけどね」
「結局やり直しましたよ」とため息。

私は海より深く反省した。
私はなるべく華やかな仕事に連れて行き、それがないときは企画を出させていた。新入社員を甘やかしていたともいえるし、お客様扱いしていた。

でも本当は違うんじゃない?
どんな仕事も、小さなことの積み重ねだ。資料集めに整理、片づけ。
でも資料のコピーだって端が切れていると読めないし、日付や出所がわからないと使えない。実際、何度もそういうことがあった。昔、私自身もミスコピーを何度もして、叱られた。

でもそれが出発点だ。
どんな企画も、小さいことから始まる。
ビル・ゲイツに話を聞きたいとしても、まずは資料を集めて着眼点を考える。インターネットでササッと集めた資料だけではとても足りない。資料室や書店や図書館を回って、コツコツ集め、調べる。

そのコツコツから仕事が始まる。
コツコツをていねいに。一つ一つ確認をしながら、進める。

どんな仕事も一つ一つ名前があって大事だ
雑用なんて、ない

昭和天皇の言葉に「雑用という名の植物はない」がある。それと同じように、雑用という仕事はない。

渡辺和子さんもおっしゃっている。

「この世に雑用という用はない」と。身に染みるし、日々実感している。

今、自分に言い聞かせている。一つ一つのことを大切に進めたい。なかなかできない。だからこそ、心がけたい。

小さなことから始める。ひとつひとつ。


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