小説:春想 第1章 〜川端康成「朝雲」に影響を受けて〜
窓から光が差す春の日の午後、一年二組のお教室の前を通りかかつた私は思はず息を飲んだのでございました。
たゞ、何といふこともなく覗き込んだだけでしたのに、私の意識は全て持つてゆかれたのです。生徒は皆既に帰つていてしんとしておりました。教壇に佇むあのお方は、虚空を眺めていらつしゃいました。私にはどこを眺めておられるのかは分かりませんでしたが、ただ一点をじつと眺めておられました。
私は暫くその場に立ち止まつてしまいました。あのお方がこちらをお向きになることが、怖く恐ろしい。しかしそ