卒論が進まない

すごく久しぶりになった。ぬんぬんと生きている。これは造語。

慣れないパンプスを履いて、側溝のグレーチングにヒールが刺さった。空を切る足、置き去りにされるパンプス。ジワジワきて、一人で肩震わせてた。絶対変な人だと思われた。

あるときは散歩中の犬に会釈してた。飼い主さん戸惑ってた。無意識だったんです、ごめんなさい。


同性の先生に告白した。今年のはじめ、母校で。恋愛感情なのかは分からなくて、ただずっと焦がれていて、好きで。
先生の授業も、考え方も、整った顔も、艶やかな黒髪も、高い声も、サッパリした性格も。全てが好きで、勝手に憧れていた。
初めて見た日、初めて授業を受けた日、初めて話した日、初めて手紙を渡した日、初めて手を握られた日、初めて悪態をついた日、貰った言葉、そんな日々の空の色、全部憶えている。君には一日、我には一生、かな。
“青春”という言葉で、閉じ込めてしまおう。そのまま琥珀になってしまえ。でもね、髪はいつまでも染められない。

卒論はそんなことを題材にしてしまったから、苦しくなって、進まない。感情は論じることが許されないですから。誰か文豪、あの世から帰ってきて代筆してくれ。太宰とか、私の気持ち分かるでしょ?


代わりに宝塚歌劇に耽溺し始めた。
美しいお芝居が、美しいショーが、美しい装飾が、美しい女性が、不調からすくい上げてくれる。盲目になっている。知っている。でも、しばらくはそのぬるま湯に包み込まれたい。


来春から教職に就く私を、あの方はどう思っているのか。多分何も思っていない。好き、嫌い、無関心、って昔から言う。
願わくばあの方のように、優しく、誠実でありたい。

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