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京セラも、かつてはスタートアップだった。リスクもポテンシャルも共有して、スタートアップと未来を共創していきたい。

京セラ株式会社はPlug and Play Kyotoのファウンディングパートナーであり、東京やシリコンバレーのプログラムにも参加しています。Plug and Play Kyoto設立から1年が経ち、最初のプログラムであるBatch 1も終了しました。京都(Hardtech & Health)と東京(IoT)のチャンピオンとして、Plug and Play Japanを横断的に活用しておられるサガラ・ジュニアディ氏と北地三浩氏のお二人に、これまでの振り返りとこれからについてお話を伺いました。

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サガラ ジュニアディ氏:研究開発本部グローバル連携推進室けいはんな推進部 シニアエキスパート
無機酸化物の理論や材料研究を経て、ミリ波用材料やデバイス開発など部品研究開発関連に従事。その後、通信やソフトウェアなどの機器研究開発に移り、現在は研究開発本部内で事業開発に携わる。

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北地 三浩氏:みなとみらいリサーチセンター 研究開発本部 エネルギーシステム研究開発部 ビジネスソリューション推進部 戦略企画課責任者
通信関連のR&Dでデータ通信端末の研究開発に携わる。
その後エネルギー関連の研究開発に移動し、エネルギーマネジメントシステムの開発に携わる。現在はエネルギーシステム研究開発部ビジネスソリューション推進部において、新規事業創出の企画に携わる。

お互い「さん」づけで呼び合うカジュアルさ。Plug and Playに出会ったきっかけ

ーー Plug and Playのパートナーに参画した経緯・背景はどのようなものだったのでしょうか。

サガラ:
弊社は製造業としていろんな製品をやってきて、各事業は成功して黒字経営になっているんです。ただ、そういった堅い事業基盤の上に立って仕事をしていると、その分野ではある程度着実な発展というのは見込めるんですけれども、世の中はどんどん変化しているのに、その成功が逆に足かせになっているのを痛感していました。オープンイノベーションなど世の中にいろんな動きがある中で、我々はどうすれば良いのかというのが不明瞭だったんですね。どうなるかわからないけれど、とりあえず人をシリコンバレーに送り込んで、現場でみんながどういう動きをやっているかを見たりとか、そういうことをまずやりましょうというのが、シリコンバレーのPlug and Play本社のプログラムに参画したきっかけです。

ーーちなみに、Plug and Play Japan の第一印象をお伺いしてもよろしいですか。

サガラ:
第一印象は、やたらハイタッチが多いな、という(笑)。

北地:いい意味で、もうちょっと真面目かと思っていたんですけど(笑)。他のスタートアップを探していた時期が個人的にあったんですが、その時会ったスタートアップもわりと堅い感じだったので、Plug and Playは私が想像していたよりも非常に柔らかくて、それがいいなと思いましたね。


ーーすみません、気を遣っていただいてますが、相当カジュアルだったということですね…(苦笑)。

サガラ:
いやいや(笑)。ひと昔前の京セラは、Plug and Playに似ていたんですよ。上司も部下も関係なくみんなが車座になって言いたいことを言い合う場があったんです。言いすぎてしまったとしても、それはその場だけでちゃんと後に引きずらないようにしていた。みんな、相手を呼ぶ時にも「さん」づけだったんです。社内は全員さん付けというのは、京セラの文化だったんです。役員や社長に対してもさん付けでした。

ーーそういう点でスタートアップスピリットを持っておられたということですね。今もそういう社風は続いているのですか?

サガラ:続いていますけど、変化したところはありますね。それは時代が変わったので仕方がないとは思いますけれど、各部署や拠点によって違いますね。


ーー北地さんにはEXPOでリバースピッチやハイタッチもしていただきましたが、感想はいかがでしたか。

北地:やっぱり慣れないことをしたので、ちょっと上がってしまいましたね(笑)。

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(アクセラレーションプログラム開始時に撮影した、Plug and Play Kyotoのパートナー企業の方々との集合写真。まだ少しぎこちない…?)

自前主義の強い事業部をどう巻き込んでいくか。手探りが続く

ーー自社の文化との違い、も課題のひとつですが、それ以外にスタートアップとの協業で課題に感じていることは何でしょうか。

サガラ:
私たちは製造業なので、ものづくりの技術が基盤になっています。そこでどうしても、自分たちが編み出した技術で何かをやりたいという意識が根強く残っていますね。製品群がいっぱいあって多岐にわたっているために、スタートアップが「私はこれをします」という何かに特化した内容のものだと、ニーズにはまる、はまらないの判断はつきやすいんです。でも一番困るのが「何でもいけます」という会社の場合。横断的なものになってくると、どこへでもはまりやすい反面、「だったら自分たちでやる」となってしまいます。そのあたりをどうしていくかというのが課題ですね。

あと一番大きいのは事業部の動き方です。だから私たちの仕事としては、スタートアップとの協業に対して「これだけのリスクがありますが、それに対して経営判断してください」というふうに提案していかないと、どこの事業部にも当てはまらないんですね。事業部に持って行った時に「面白いね」だけで終わってしまって、経営判断ができないという事も。自分たちで経営判断ができるように持っていかないといけないというのが課題かなと思っています。なので、リスクをどういうふうに伝えるかというのがいつも頭を痛めているところですね。リスクを共有して、それに対して京セラとスタートアップが一緒にシナリオを描けるか描けないかというところだと思うんですよね。具体的なシナリオが描ければ、あとは一緒にやっていきましょうと言うだけなんですけれど、なかなかそこまで至らないなあというのが実情です。

スタートアップへ一言お伝えできるとすれば、自分たちのミッションを阻んでいるものを教えて欲しいですね。スタートアップが抱えているボトルネックや課題が明確になっていると、私たち大企業からすると何をアセットとして提供できるかが判断しやすいです。アピールポイントと同じくらい、自分たちのビジネスの阻害要因を教えてもらえれば、協業の方向性も考えやすいなあとはいつも思うところですね。

大企業やスタートアップがお互い「こういうことができます」と言うのもいいんですけど、それよりは「こういうことができていないんですが、力を貸してくれませんか」というのが一番わかりやすいんですね。

ーー 自社の事業部が求めている技術ニーズを具体的にリスト化して公開している企業もありますが、そういう体制ではないのでしょうか。

サガラ:弊社の特徴がアメーバ経営で、各部門が独立採算をとっているのが大きいんですね。ニーズに関して各部門の中では、自分たちの感覚で持っているんですけど、全社的にそれを棚卸ししてまとめるというのは難しいんじゃないかな…。各事業部の主体性が強いんですよね。なのでDeal Flowの時に個別にその都度確認する、というやり方になっています。全社的にニーズを串刺ししてまとめるというのは、トライアルでやろうとはしていますけどまだできていないですね。

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(上:京セラ本社で行われたピッチイベントの様子。中:京セラの長い歴史が一目でわかる稲盛ライブラリーの展示。下:京セラ本社のツアーに参加したスタートアップ)

何と何をどう掛け合わせる? 様々な角度からのオープンイノベーションへのアプローチ

ーーみなとみらいという場所を作られていますが、どの様なミッションなのでしょうか。

北地:オープンイノベーションって、まだ社内で根付いていなかったんですが、みなとみらいはまさに「開かれた京セラ」というところを目指しているんですね。オープンイノベーション専用の部隊とか専用の部屋を作っていますし。これまで製造業ということもあってどちらかというと閉じた環境だったと思うんですけど、これをきっかけに他と共創していこうと。「みなとみらい」のネーミングにも「皆と未来」をかけているという部分もあります。うちの会社だけでできることってほんのわずかで、スタートアップだけでなく、大手企業にもたくさん来てもらって共創していくことが重要だと経営陣は考えているそうなんです。京セラの中でもモデルケースになる場所にしていきたいですね。


ーー東京のIoTバーティカルではこれまで2回、京都では1回Batchが終わりましたが、終えてみていかがですか。

北地:私自身はエネルギー関連の企画がメインになっているので、その目線で話すんですけど。正直に言って、最初は何をどう組み合わせていいかわからなかったですね。エネルギーってインフラ的な側面が強くて、どうスタートアップの技術と取り組んでいけばいいのかというのに悩んでいました。これまでに3回経験している中では、今回のIoT Batch5にいちばん期待をしていて、ようやく付き合い方というのがおぼろげながらにわかってきた感じがあります。またチーム内の意識に関しても、さきほどサガラが言ったようにまだ自前主義というのがあって、何かを持って行っても結局自分たちでやりたいとなってしまうというのがあります。技術者なので、その気持ちもわかるんですけど。そこをどういうふうに切り崩していくというのかを、徐々にもがきながら模索しているところですね。私は研究部門にいるので、事業部まで一番遠いポジションなんです。そういうところで難しい面はあるんですけれど、ようやく形にできそうに思えてきました。


ーー サガラさんは東京のIoTと京都のヘルスケア、両方のバーティカルを経験されていますがいかがですか。

サガラ:
京都はヘルスケアに特化していますが、テクノロジーがIoTとかぶるところも多くあって、メディカル部門だけで見るにはもったいないと感じてIoT側に紹介したりもしていました。最初の目的とは違うんですけど、京都の立ち上げに参加したことで、IoTの渋谷と両方それぞれに橋渡しできるので、うちの会社としてはよかったなと思っていますね。


ーーこれまでで印象に残っているスタートアップはありますか?

サガラ:私は材料が出身なので、ウルトラファインバブルのスタートアップ(株式会社ウォーターデザインジャパン)とかは面白かったですね。マテリアルに関係したスタートアップがもっと出てくるといいなと思います。特に日本は、材料の分野に強いはずなんです。新しい材料そのものは日本では見つけにくいかもしれないですけど、新素材をものにしていくという点に関しては日本は長けていると思うので期待しています。ウルトラファインバブルもそうなんですが、新素材はいろいろな用途に使っていけそうだということで、正直ワクワクしていますね。

北地:NanoFlowXさんとかは衝撃でしたね。あとは振動発電のスタートアップ(Enervibe)さんとか、実現したらすごいなと思います。


ーー最後に、スタートアップへ一言お願いします。

サガラ:私はさきほども言いましたが、アピールポイントだけでなく、ボトルネックを共有させてほしいというのがお願いですね。それによって協業できるできないが考えやすくなると思います。

北地:やはりスタートアップに対してスピード感というのが足りないと思いますので、そこは大目に見てもらいながら(笑)、末長く付き合っていただきたいですね。

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