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[ショートショート] カバー小説:兄ちゃんとコックピット [yuhi(ゆひ)さんの物語をカバー]

カバー小説を書く試みです。
原作はこちら。

兄ちゃんとコックピット

 兄ちゃんが砂場で熱心に何かを掘っていた。

 そういう時はだいたい何か面白いものを見つけているので私は兄ちゃんのところに行くことにしている。

「兄ちゃん、何かあったの?」

 私がそう訊ねると、兄ちゃんは砂場に視線を落としたまま手を止め、掘っている場所を指さした。

 兄ちゃんは小学一年生だけどまだお喋りができない。ゆっくり大きくなっているからだ。
 そのうち喋るようになるらしいけど。

 それはさておき、兄ちゃんは何かを見つけたみたいだ。

 兄ちゃんが指さしたところを覗いてみると、小さなコックピットが顔を出していた。
 ほら、Youtubeとかで動物たちが乗っているロケットみたいなやつ。

 なにこれ? と思って兄ちゃんを見ると、兄ちゃんもこっちを見ていた。
 兄ちゃんは笑っていた。ということは、これは危険なものではないんだ。

 私と兄ちゃんはもう一度小さなコックピットを見下ろした。
 すると、ドアのようなところがパカッと開いて、中から小人が顔を出した。

 それを見ると兄ちゃんはしゃがんだままの姿勢で体をぴょこんと動かして「おー!」と言った。
 私もびっくりして兄ちゃんに掴まった。

 小人はしばらくキョロキョロしてから、私たちを見上げると「もう春か?」と言った。
 兄ちゃんが興奮して小人を触ろうとしたので、私は慌てて兄ちゃんの手を抑え、「ま、まだ冬です」と答えた。

 すると、小人は「じゃあまだ寝る…」と言ってパタリとドアを閉めて引っ込んでしまった。

 「うー!」と声を出して私の手を振りほどくと、兄ちゃんはコックピットを持ち上げた。
 コックピットを持ち上げる手はとっても優しかった。

 まるで小さな動物でも抱くように兄ちゃんはコックピットを胸に抱いた。

「それ、持って帰るの?」

 私が聞くと兄ちゃんは小さく「うん」と言って頷いた。

 ここに置いていった方がいいかも…と思ったけれど、私も小人が気になってしまったので兄ちゃんの好きにさせることにした。

 兄ちゃんはコックピットを優しく抱えると、お母さんの方へとタタタっと走って行った。
 そしてお母さんの腕をトントンと叩いて家の方向を何度も指さした。

「あれ? もう帰るの?」

 とお母さんが言うと、兄ちゃんは何度もうん、うん、と頷いていた。
 兄ちゃんは器用にコックピットを隠し持っていて、お母さんは気が付いてないようだった。

「兄ちゃんがもう帰りたいって」

 お母さんが私にそう言ったので、私は「はーい」と返事をして私たちはお家に帰った。

 家に帰ると兄ちゃんはお母さんが見ていないうちに、あまり使ってない引き出しにコックピットをそっと隠した。
 そして私の方を見ると、ケケケとイタズラしているときにする笑いをした。

 私はシーっと言って兄ちゃんに秘密ということを知らせた。

 それから私も兄ちゃんもそこにコックピットを隠したことをすっかり忘れてたんだけど、昨日、お母さんが引き出しのところで「ぎゃーっ」と叫んだので思い出したんだ。

 引き出しからは同じ見た目の小人たちがゾロゾロ、行列になって歩いて出てきていた。
 いったいあの小さなコックピットに何人入っていたのだろう…と思うほどにたくさん出て来た。

 兄ちゃんは「おー…」と言いながら小人たちをずっと見ていた。

 そうか、もう春になったんだ…と小人の行列を見ながら私は思った。


椎名ピザさんの『カバー小説』に挑戦です。

あとがき的な

yuhiさんのカワユイこの物語を読んで、これは、もしかして、今現在、私にか書けないカバーができるのでは?と思ったのです。

yuhiさんと私の共通点。それはダウン症の息子がいることです。
この砂場の物語を読んで、私は息子が砂を掘っている姿が見えるようでした。

息子なら小人のコックピットを見つけてもおかしくはない…。

そう思ってこのお話を我が家バージョンで書いてみました。

いつかダウン症の人と生活してる感じを小説に盛り込みたいなと思ったりしていたので、やってみて面白かったです。

ちなみに、私は小人が見える子供でした。

yuhiさん、春に小人が出て来ないか気をつけましょう☆
ありがとうございます。

※写真はうちの息子です

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