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[ショートショート] 春とギター:底無しの欲望

目を開けると野原にいた。

ヒラヒラと蝶々が飛んでいく。
うまそうだなと思った。

ゆくっり立ち上がると少し目眩がした。
あっちで少しどんちゃん騒ぎやりすぎた。

私の名前は春。いまそう、ここにこうして生まれたばかりだ。

音が聞こえてきたので私はそちらへ向かった。
人間がいた。

人間は弦楽器を持って声を出していた。

私はこれが “歌” というやつだと知っていた。
我々が奏でるものとはだいぶ違っているが、これは人間の作り出す音楽だ。

私はその音が好きだった。
私は人間のそばに近寄った。

人間はびっくりして音楽をやめてしまった。

「やめるんじゃない、もっと続けろ」

人間は音楽を続けた。私は人間が音楽をやめることを許さなかった。

人間はもう疲れたから勘弁してくれと泣いた。
私は人間の身体を癒してやり、演奏を続けさせた。

今度は腹が減ったと言って人間は泣き出した。
だから私は食べ出してやり、演奏を続けさせた。

次に人間は愛がほしいと言って泣いた。
だから私は人間に愛を与えた。

人間の欲望は底無しだった。
私はそれを限りなく満たしてやった。

そして人間は音楽を奏で続けた。
この世が終わるその時まで。

私が飽きてしまうその時まで。

(486文字)


たらはかに(田原にか)さんの『毎週ショートショートnote』に参加します。

今週は、PJさんとにゃんくしーさんの合同企画『春とギター』とコラボですって!
たらはかにさんありがとうございます☆

『春とギター』は簡単に言うと、応募された詩に、他の人が曲をつけたりするコラボ企画なのですが、そこで私は神を見たんですよ…。
本当ですよ…。

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