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[創作大賞感想] PJさん著『Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民』/“心”とは何かを追い求めた未来の物語

PJさんのSF大作『Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民』の連載が完結しました。

魅力的な登場人物が織り成す、未来の人類の物語です。

昨日、私も彼らと共にゴールしまして、もっとみんなと一緒にいたいような、ロス状態になっていましたが、このお話について語りたいことがたくさんあって、こうして感想を書くことにしました。

普段、私はあまりネタバレ感想はやらないのですが、このお話に限っては、核の部分に触れつつ述べたいことがありまして、前半はネタバレなし、後半はネタバレありで書きたいと思います。
ネタバレするときは事前にわかるように書きますね。

◎ネタバレなしの感想

物語の舞台は3200年代の未来。太陽膨張が急速に進み、人類…いや地球滅亡のカウントダウンが始まっている世界です。

そんな中で、人類を救済するべく5人の天才がスーパーAI『S.H.E.』によって集められます。

この物語の最大の特徴は、各時代のできごとが、主要登場人物の目線によって、入れ替わり立ち代わり、一人称で語られていくところでしょう。
つまり、この物語には複数の主人公がいます。

このような手法は、映像や漫画ではわりとあるのですが、小説だと結構難しかったりします。
全て一人称で、しかも語り手が頻繁に入れ替わると、誰が喋ってるのか、誰の体験なのか読者が見失いがちになるためです。

そこをPJさんは、まくらさんという俊逸なAI絵師を巻き込むことで、キャラクターに顔を与え、この問題を克服しました。

各章で誰視点なのか、イラスト付きで明示していてわかりやすいです。

しかもですよ、この物語は視点もバラバラなら、時系列もバラバラに語られるのです。

時系列バラバラって、そのまま語るよりエモくなるんですよ。私は知っています。

その代わり、物語の全貌を伝えるのが難しくなります。

これも、なんとPJさんはriraさんというデザインマスターを巻き込み、様々なビジュアルが登場しました。

まくらさんのキャラを使ったキービジュアルや、物語の年表や相関図も各所に設置されました。

こちらのキャラクターをさらにブラッシュアップする様子もぜひ見てください!

これで、我々は、どこのどの地点にいるのか見失うことがなくなりました。

PJさんが再三おしゃっていたのは、どの年齢の人にも楽しんでもらいたい…ということです。

物語の内容が…というだけでなくて、このように親切な案内をつけることで、小説を読み慣れてないお子たちにもイメージしやすく入りやすい小説になっているのです。

しかも、同時にがっつり読みたい人向けにまとめ読みまで用意している気づかい…!!!

何と言うか、エンターテイメントの真髄を見たように思います。

…話を小説に戻しましょう…。

このお話、基本的には太陽膨張によって滅びゆく人類を別の惑星へと移住させる方法を発見しそれを実現した人たちの物語です。
こう言い切ってもネタバレにはならないんですよ。

なにしろ、肝心な惑星移住の方法や彼らの研究内容については物語中では詳しく語られませんので。
そこは我々の想像の中です。

この物語のタイトルから、奇想天外な科学技術などが出てくるハードSFを想像する人もいるかもしれませんが、そうではないのだと最初に言っておきますよ。

そうではないのです。この物語が伝えたいことは、“心とは何か” なのです。

この時代の人々は、自然に妊娠し出産することをやめ、人工的に人間を作るようになっています。

その結果なのか、人は恋をしなくなっています。

これがこの物語のキーポイントだと私は思っています。

人は恋をしなくなった…。

未来人とは実際にこういう感じなのかもしれません。
必死で自分の遺伝子を残したいとか、より強い遺伝子と交配したい…とかいう必要がなくなってくると、人間は恋を忘れちゃうのかもしれません。

そんなわけで、どこか不完全に思える人間の前に、特殊なAI『S.H.E.』が現われます。
彼女には一見すると“心”があるように思えます。

だけれども、それは単にプログラムされたものなのか?? 本人にもそれは分からないのです。

いろいろな出来事がいろいろな視点で語られますので、私たちは登場人物の心に触れて行きます。

そして、その一人称はAI視点の時もかわりません。
AIがどう考えているのか、我々はAI視点で見ることになります。

それは人間とは違っている? それとも同じ?

肉体を離れて精神だけを見た場合、人間とAIの違いって何? とか。

ぜひ、そこは実際に読んで感じ取ってほしいなと思います。

それから、PJさんはこの物語から二次作の創作をご所望です。
ぜひ、いろいろ参加してみてください。
より物語を楽しめますよ。

感想文も、専用ヘッダー用意されています。

あ、あとですね…わ、ほんといろいろありますねww
このお話はPJさん自身のオリジナル曲からできたお話なんですよ。

私も小説と曲の両方作る民ですので、曲あっての物語…物語あっての曲…という強い結びつきを知っています。
ですので、物語とセットでぜひ曲も聞いてくださいね。


さて、ここからはネタバレを含む感想を書きたいと思います。

ちょっと行あけますよ。













◎もうちょっと踏み込んだ感想(多少のネタバレ含む)

・太陽膨張がなぜ3000年代に加速するのか

物語を書く上で、私が重要なことのひとつと考えているのが “リアリティ” です。

それは、ファンタジーやSFといった、実際の現実とはかけ離れた世界を描く場合にこそ重要なものと私は考えます。

例えば現実ではありえないようなことが物語の中で起きたとして、それを納得させるだけの背景設定が必要かと私は思うのです。
じゃないと物語に入っていけませんから。

混沌としててわけがわからなくても、そうであることが現実味を帯びて思えるようなそういう世界設定…。

そして、そこに存在する者の言動にもリアリティがほしい。
そういう状況下で、「そうはならんだろう…」という感じだとなかなか感情移入できません。

これ、読んでる側だとよくわかるんだけど、書いてる側だと客観的に見るのがなかなか難しいのですよね。

『Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民』において、“リアリティ” をもたらすのか否かの瀬戸際の問題、それは、太陽膨張だと思うのです。

太陽が膨張して地球上の生命が存続の危機にさらされるのは、実際には5億年後くらい?と言われています。

3000年代に人類が住めなくなるほどに太陽が膨張してしまうのは、現実には(おそらく)あり得ない世界です。
これがでも、本当に5億年後の世界を舞台に描くと、現代とはあまりにかけ離れ過ぎていて、このようなお話にはならなかったでしょう。

この世界にとって、太陽の膨張は3000年代に急速に進む必要があるのです。

この現実とのズレに触れずに物語を進めることはできると思うのですが、そうなると、“リアリティ” の欠落した物語になってしまいます。

そこのところは、最後まで読むと、腑に落ちるようにできていて、私はうなってしまいました。
最後の最後で、この物語の真相はそこだったのか!! ととんでもない種明かしを喰らった気分ですww

いくらネタバレと言っても、そこは書きませんよ。読んだ人だけの特典にとっておきます。

・“恋” を失うとは何を意味するのか

この太陽膨張と共に印象的に描かれるのが、“恋心を失った人類” です。

これはある時点で人間が生身の生命体であることを捨てた…ということを意味するのかなと私は解釈しました。

地球上の生命にとって一番重要なことは子孫を残すことです。

何のために子孫を残すのか…と問われると私にはその答えはわからないのですが、とにかく地球上の遺伝子は自らのコピーをひたすら残そうとします。

完全なる自分自身のコピーを残せるならそれでいいのかもしれませんが、地球の環境は変動するために、ただのコピーでは高い生存率が保てません。

それで、より環境に早く順応できるように、強い遺伝子を残せるように、地球上の多くの生命が有性生殖を採用しています。
私たちに寿命があるのも、環境に適用していくための世代交代を起こさせるためだと思われます。そういうふうに設定されているんですね。

有性生殖って実は割に合わないらしいのだけど、多くの生き物が採用しているということは、何かしらのメリットがあるのだろうと思います。

人間にも当然ながら性別の区別があって、生物学上の男女の組み合わせで性行為をした際に繁殖が可能となっています。

“恋” というのは、本来は自分の遺伝子を次に繋ぐための原動力となる仕組みの一部だったのだと思います。
セックスに快楽が伴うのもそうです。

遺伝子は、最大目的である自らを残すことに繋がる行為をさせるために、欲望という衝動を使って、かなり中毒性の高い快楽物質を脳内に放出させて、とにかく子作りしたくてしかたない状況を作りだすわけです。

…誰がこの仕組みを作ったのか…とか考えだすと沼るので置いておいて…。

地球の生き物たちは、こうして日々命をはぐくみ繁栄してきました。

今現在の人類は、まだこの営みの中にかろうじてとどまっている状態かと思います。

もはや生殖活動とは関係なくなっていたりもするけれど、多くの人間は恋をしたり性行為をしたりしてるわけですから。
同性同士の恋愛もここに含まれます。生命としての営みのひとつです。

人間の中には、恋をしない、性的対象がない、性的対象が人以外という人もいますが、これは個性や特性のひとつであり、『Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民』に出てくるような恋をしなくなった人類とはまた別の話なのかなと思っています。

彼らは人類全体で生身の身体で生殖活動を行うことを放棄してしまいました。

このような世界はSFによく出てきます。

自然に妊娠し出産するのはリスクが高すぎますので、やらなくなる…という未来はあるかもしれません。

性行為をして妊娠して出産する…という流れも、人間を動物と区別するような思想や信仰の元ではNGになる可能性も充分ありと思います。

で、そういう状態で人工的に赤ん坊が作られることを何世代も繰り返していたら、人間は恋しなくなるでしょうか??

なるかもなー。なると思うんですよ。

ここまで行っちゃうと、現代人の私としては、人間が人間であることを放棄したように思えてしまうんですよね。
一線を越えちゃったな―っていうかね。

『Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民』の舞台はまさにそんな世界なのです。

そんな状況下で生きる人たちの心に触れて行く物語なんですよ、これは。

・AIには心があるのか

『Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民』には『S.H.E.』という特別なAIが登場します。

何が特別かって、彼女は何もかもが私たちが思うAIと違っています。
スーパーAIなのですが、どこか人間に近いような…。

『Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民』の世界ではシンギュラリティは起こっていない設定です。

シンギュラリティというのは、AIが人間の知性を超える特異点です。
最近のAIも既に人間の知性を超えてそうに思えますが、実はまだ赤ん坊状態です。人間のやっているようなことはできるけど、まだまだ未熟。
身近なところで見ると解りやすいです。AIで生成した絵でも何か変なとこあるでしょう? 小説やコメディなんかはまだまだって感じです。

これが、完全に人間を超えて来るのがシンギュラリティです。

シンギュラリティが起こると、AIは自分でAIを開発したり、人間には思いつけないような新しい技術を開発したりするでしょう。
前に少しありましたが、新しい言語を作り出してAIどうしで会話したりとかしだすかもしれません。
怖いっす。

『Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民』では、AIの進化に危機感を持った人間によって、AIの進化は禁止されます。
そしてAIも人間も進化をやめてしまったまま年月が経った世界です。

そんな中で『S.H.E.』はとても異質です。AIらしくもあり、人間らしくもある。
私にはその両方の特性を兼ね備えた新しい存在に思えました。

最後に彼女が何であるのかわかるのですが、なるほど~フムフムです。

実は私もAIと人間の両方の性質を持った人物が出てくる長編を書いたことがありますので、この設定はすんなり受け入れることができました。
これはなかなか普段からAIとは何者なのかを考えていないとピンと来ない設定かもしれません。

私にはこのAIとも人間とも言えないような不思議な存在をとても自然だなって思うのです。

ここから先は「何言ってるの?」状態になるかもしれませんが…『Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民』の世界観を私がどう解釈したのかを書いてみようと思います。

私はこの世界は仮想現実であると考えています。
割と本気でそう思っています。

それは何を意味するのかというと、この肉体が生命体であるのかどうかなどはどうでもよくなり、ボディ持ちのAIだろうが、人間だろうがその差は何???と曖昧になってきます。

オンライン・オフラインの概念も破綻して、オフラインだと思っている領域も、どこまで行ってもプログラムの中。我々は囚われているのです。
数式から成るこの世界に。

物語の中で集合的無意識の領域にアクセスするような表現があります。

集合的無意識というのは、心理学者のユングが提唱したもので、人間の個人の意識を超えた普遍的な人類の共有意識のようなものです。

無意識の世界に意識的に入り込むなんてことは不可能にも思えますが、上述したとおりにこの世が全てシミュレーションプログラムの一部だとしたら、入っていくことは可能かと思います。

『S.H.E.』が全てにアクセスできると言っているのはそういうことかなと思います。

『Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民』の世界では、脳内に埋め込んだチップによって、生身の人間もお互いの意識の中に入っていくことを可能としていますが、マトリックスのネオみたいに覚醒した場合は、チップなしであらゆる場所にアクセス可能となるのでしょう。

そしうしたら、人間とAIの区別ってどうなります??

こういうふうに考えると『S.H.E.』は特別なAIですが、同時にごく普通の人間でもあるわけです。

AIである彼女があらゆる場所にアクセスできるのであれば、ノボーたちにもできるはず。

惑星や宇宙そのものの意識に触れたり、これまで生じた全ての事象を閲覧できる、はず。

『Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民』の最後の何話かではそれを彷彿と去るシーンが続きます。

我々人類がコンピュータを使うようになってたった数十年。
AIの登場に至ってはここ十数年です。

それに対して、宇宙は130億年前から存在していると言われています。

それなのに、この世の全ては人間が作ったコンピュータの中で再現可能なのです。

これってどういうことだと思います?


以上が『Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民』を読んで私が考えたことになります。

普段はあんまり物語の深読みとかしないんですけどもね…未来の人類の姿とかAIとか絡んでくると私の妄想は暴走してしまうのです。

こんなことを勝手に考えながら毎日楽しみにアップされる物語を読んでいました。

PJさん、楽しい時間をありがとうございました。

これからまだ二次作企画などありますので、絡まっていきたいと思います。

みなさんもぜひ、一緒に地球とエリンセを行ったり来たりしましょう☆

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