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報道の客観性

 結論から書いておくと、報道に「絶対客観」は存在しないと思っている。

 事実の一部を映したりインタビューのコメントをそのまま流している様に見えたとしても、その切り取り方やインタビューの仕方は報道している側の主観や思想によるフィルターを通ることになる。もっと言えば報道「するか」あるいは「しないのか」と言うのは報道者が選択できるのである。また現場で見ている者ですら全ての事象を把握している訳ではなく、そこにフィルターが生じるのは当然のこととなる。

 したがって、「報道は報道を行う者の主観的な行為である」と言うことを認識した上で見聞きすれば良いのだが、現実にはなかなかそうなっておらず、テレビや新聞で報道されたことは客観的な真実であると思ってしまう人もいる。

 本来なら報道を行う側において報道が主観的であることを自認し出来るだけ主観を混入させない様に報道すれば良いと思うのだが、どうも大手マスコミの報道を見ているとむしろ逆の方向性で、自らの思想をたっぷりと混入させた上で扇情的に報道を行なっている(一見して客観的事実だけを提示しているように見せても見た側がこうだろうと言う印象を持つように切り取っている)と感じる。

 報道は民衆において真実を知る手段であると言う点と、国家権力に対抗する手段であると言う点において極めて重要な仕事だと思うが、重要であると言うことにあぐらをかいて報道者は一般民間人よりも上位の存在であるとマスコミは思っているのではないかと疑う時がある。


 先日検事長とマスコミの社員にて賭博麻雀が問題となり、検事長が辞職した。

 犯罪者を起訴する立場である検察のトップが自ら賭博を行なっていたと言うことで免れ得ない辞職だったと思うし、このことはそんなに違和感はない。

 問題はマスコミ側だ。マスコミの従業員が検察のトップと日常的に賭博を行っていた、そのことは重い罪ではないのか。政治記者がこういった要職と仲良くなりオフレコの特ダネを得ることが出来ることがあるのも理解できないではない。

しかしだ。

 マスコミはこう言った事件を仮に一般の法人が行なっていればどう報ずるか。寄ってたかって叩き回し、代表取締役等による謝罪会見を求めるだろう。そしてその法人の役員は辞任退任や報酬減額だ。

 もちろん全ての不祥事で企業が謝罪会見を開いているとは思わない。例えば従業員が窃盗をして逮捕されたと言う様な事案であれば業務とは無関係だし、従業員のパーソナルによるものだろうからこれを企業側の責任とまで問うのは酷だろう。

 しかしながら今回の件は報道と言う本業の継続的取材対象との懇親と言う業務隣接(と言うか業務範囲内だと思う)行為での法令違反であり、「会社」としての違法行為だと思うのだ。(会社としては関知していませんでしたと言うかもしれないが、「監督責任」とはまさにこう言った時に使う言葉だと思う。)

 今回の件だけではないが、マスコミは自らのミスや同業他社の罪に対しては非常に寛容だ。謝罪があったとしても番組冒頭でMCが謝罪するかテロップが流れる、または記事の文中に謝罪文を入れる。謝罪を行うのは番組の担当者でマスコミのトップが謝罪会見を行なっているのは先ず見た記憶がない。本当にこれで良いのか。これではマスコミの責任感は全く感じられない。仮に誤報があっても軽く謝罪すれば終わり。誤報を受けた人の人生が変わったとしても責任は取らない。特に今回は誤報ではなく刑法罪に抵触する犯罪の恐れがある訳である。少なくとも番組内謝罪で終わって良い話ではないなずだ。

 政治を見ても政権、野党を問わず様々な問題を感じることはあるが、政治は報道があるが故に批判反論にさらされる機会がまだ一応ある。ところがマスコミはそういったことにさらされる機会がほとんどなかったのではないか。最近になりようやくインターネットの発達によりSNSや掲示板で「マスゴミ」と言った表現をされ批判を受けたりその傲慢さが露呈することが出てきたくらいのものだ。

 マスコミは例えばテレビであれば特定の周波数を割り当てられて放送を行う権利を容認されている。大衆からすると「一見無料」で公益的に映るかもしれないが、彼らのお客様たる「スポンサー」から広告料を収受しているごく普通の一般営利企業なのである。そしてお客様であるスポンサーの不祥事に対しても当然に甘くなる。

 マスコミと言っても公益目的の財団法人等ではなく「株式会社」な訳だからこの点はある意味当然である。株式会社はそもそも営利を追求する社団法人なのだから。したがってその法人格の通り「一民間企業であり利益を追求することが目的です」と表明してくれれば良いのだが、「大衆の知る権利に資する」、「世間が納得しない」と言う様にいかにも公益を目的として活動している様に擬態するのが間違っているのだ。お客様は世間ではなく広告を出しているスポンサーだろうに。

 マスコミは確かに世の中にとって重要な仕事であることは間違い無いが、あくまでも一般事業法人であり他の仕事を営んでいるその他企業と何ら変わらない訳であるから、今回の事件であればきちんとマスコミのトップが出てきて謝罪し、辞任するくらいの気概が欲しかったところである。そうすれば「覚悟を持って取材し報道している」のであろうと思えるのだが。


※本記事においてバラエティ等マスコミの報道以外の機能は考慮しません。マスコミ=報道者の意味合いで記載しています。


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