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元銀行員が仙台銀行の誤送金について感じたこと

先日仙台銀行の多賀城支店で1,000万円の誤送金があった。

同じ銀行で口座番号が同じだが、店名が異なる口座に行員が誤って送金したことに2週間も気づかなかったらしい。

そのニュースを知ったとき、銀行の国内為替業務が長かった私は「ありえない!」と驚いた。

普通なら最低でも2回、状況によってはそれ以上の回数精査(この場合は送金伝票のチェック)でミスが見過ごされ、2週間も放置されたことが「ありえない」と思ったのだ。

その件に関して私は正直「杜撰すぎる」とあきれた。

同じ銀行の同じ口座番号でも営業店が違えば「別名義」

今回のケースは、うっかりすると起きやすいケースかもしれない。

「同じ銀行」で「同じ口座番号」の「別名義の口座」に誤送金された

からである。

「え?そんなことってあるの?」と思われるかたもいるだろう。

しかし、元銀行員から見ればそれは十分にありうる話だ。

私の記憶に間違いがなければ、オンライン化が始まる前やオンライン化が進んでいなかった時代は営業店ごとに口座番号を発行していたからだ。

※オンライン化が進んだ今は全行単位で口座番号を発行していると思う。新規開設の口座については同じ行内で番号が重複することはないだろう。

そのため、同じ銀行でも異なる営業店であれば口座番号が重複することはあった。つまり「同じ銀行の同じ口座番号でも口座開設した営業店が違えば別名義もありうる」ということだ。

おそらく仙台銀行のケースでも、正誤双方の口座が昔からあったのではないだろうか。

そのような状況であれば入力時にミスが出てもおかしくはない。もちろんミスをしないに越したことはないが、人が行うことなのでゼロにすることは不可能だろう。

驚いたのは仙台銀行のチェックのずさんさ

私がこの誤送金について「ありえない」と言ったのはその点ではない。送金処理終了後に必ず複眼で行われる「精査」と呼ばれるチェックがずさんすぎると感じたのだ。

とりわけ驚いたのは、誤送金が2週間もそのままにされていたことだ。まともな精査が行われていれば、当日中には誤送金したことがわかるはずなのだが……

このケースでは、顧客が必要事項を記した送金伝票の内容を端末に入力する形で送金を行ったと思われる。

端末で入力された内容は送金伝票に印刷され、送金処理の内容が可視化される。(銀行の営業店ではすべてのお金の取引において伝票を作成します)

伝票は処理が終わったあとで「精査」に回され、複数人によるチェックを行う。通常、1回目の精査は同じ業務に従事する行員同士で行い、2回目以降は役職を持つ行員が行うことになっている。

極めて重要な決済であれば最後に支店長が精査することもある。

ただ、仙台銀行のケースは送金なので、おそらく役職がある行員が最終の精査者だったと思う。それでも合計2~3人による精査が行われ、最終精査までにミスが発見されるのが普通である。

このように、送金一つでも複数の伝票チェックを行うはずなのに、なぜか大きなミスが発見されぬまま精査を通ってしまった。

さらに2週間もミスが放置されたなんて、元銀行員から見れば信じがたい話なのだ。

だからこそ、私は仙台銀行はなんてずさんな業務を行うのだろう?と驚いたし、全国ニュースにもなってしまったのだろう。

些細な入力ミスが大きな損失になりかねない銀行業務

銀行の送金ミスの主な原因は些細な入力ミスだ。

しかしそのミスは非常に危険なミスでもある。

仮に誤送金した口座名義人がお金の返還に応じなければトラブルに発展し、本来送金されるべきだった口座の名義人や銀行に大きな損害を与える可能性もあるからだ。

また、ケタが1つ違う億単位のお金をうっかり誤送金してしまったら……?恐ろしすぎてその後起こりうることを想像もしたくない。

そのようなリスクを最小限にするための防波堤が、複数人による精査だ。

精査を行う者は「伝票に記載された事項」と「端末で印字された事項」との相違がないかどうかを細かくチェックし、万が一相違があれば速やかに誤りを正す必要がある。

でないと銀行そのものの信頼が大きく揺らぎ、存続の危機に立たされるかもしれない。銀行ではあってはならないミスが仙台銀行で起こってしまったのだ。

誤送金先の口座名義人が良心的でよかった

このケースでは誤送金された口座名義人が自分で申し出たようだが、その人が良心的な人で本当によかった。

おかげで関係者のクビが飛ばずに済んだと思うと、まったく関係ない私でも「ああ……本当によかった」と心から思う。

たぶん日本だからそのようないい結果に終わったと思う。生き馬の目を抜く海外であれば銀行が1,000万円の損失を被っていたに違いない。

そう考えると、「仙台銀行が日本にあり、日本人の口座間での誤送金でよかった」とも思う私である。

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