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アニメ「スーパーカブ」感想文

自己紹介の文面に「アニメ」って書いてるのに、そういや私ほとんどここでアニメの話してないですよね。ということで、今回は第一話から最終話まですべてリアルタイムで視聴したアニメ「スーパーカブ」について書きたいと思います。ひさびさに人に語って聞かせたい作品が現れたと感じました。


「スーパーカブ」ってどんな話?

山梨県北部を舞台とした女子高生たちと彼女たちが乗る原付「カブ」を巡る日常(あるいは少しだけ非日常)を描く作品です。
「親はいない。お金もない。趣味もない。友達と呼べる人も、将来の目標もない」と自分のことを語る主人公小熊(こぐま←名前です)がスーパーカブ(ワケ在り品)を1万円(!)で購入したことから行動範囲が広がり、友人ができ、少しずつ周囲と自身の繋がりを獲得していく物語…と私は思っています。あながち間違ってはいないでしょう。

作品概要

アニメは2021年4月~6月にかけて全12話にてTOKYO MX、AT-X、KBS京都、サンテレビ、テレビ愛知、BS11、山梨放送、ABEMAにて放送されました(私が知る限りそうなのですが他にありますかね?)。
なお原作は角川スニーカー文庫より2017年5月に発売されたトネ・コーケン氏による単行本全6巻。
アニメの話は原作の1~2巻の話がベースとなっているようです。
このあたり詳しく知りたい方はウィキペディアにてどうぞ(小説って書いていますが、アニメ版にも言及されています)。


「スーパーカブ」感想文

「これはアニメの形を借りたドキュメンタリー番組だ」と私は感じました。

地方に住む女子高生の淡々とした日常。普通の高校生活。代り映えのしない毎日の退屈。車のモーター音以外何も聞こえない街道筋。静寂の森。季節の移り変わり。灰色の世界に色を付けていく登場人物たちとスーパーカブ。

日常だ。
ただひたすらに、日常だ。

(五七五調を意識したわけではない)

その日常をただひたすらに追いかけ、撮って切って出した。
何らコメントを付けることもなくほぼ無編集で。
すべての感情を視聴者に丸投げして。

だけどこれが面白い。
というか見ずにいられないのですよ。

これを見て思うことは、我々が普段いかにいろいろな手が加えられた映像を見せられているかということ。面白くて絵になる素材はそれはそれで価値がありましょう。でも、何の変哲もないただの日常が、第三者から見たら実はとてつもない価値があることだってあるのです。結局誰かの日常は、それがどんなに平凡で退屈なものであったとしても別の誰かにとっての非日常なのですから…なんか哲学的なこと言っちゃってますかね私。

これを実写ではなくアニメでやったことにその凄さがあると思っています。キーワードは、「美術」と「静寂」です。

「美術」。この作品は美術的な描き込みが半端なものではなく、その街並みや自然、バイクの描写は実写と見紛うことがあるほどです。その反面、登場人物たちはペンで描いたようなタッチとなっており、いい感じで背景との好対照を為しています。

「静寂」。この作品はBGMが流れるシーンと登場人物がしゃべったり考えたりしている部分以外は基本的に無音であり、聴こえてくるのはバイクの走行音だけ、みたいなシーンが結構あります。全体を通じてこんなにも静かなアニメ作品を見たのは私的にはこれが初めてです。

でも、日常を撮って出しのドキュメンタリーなんだから、それでいいし、それがいいんですよ。
病的とも言えるほどの執拗さで追及された「美術」と、おそらくは意図的に仕組まれた「静寂」。それが「アニメでドキュメンタリーをやる」という目的にとって必要不可欠な要素であったのではないかと私は感じています。

スタッフの皆様が本当にそう作ったかなんて分からないし、多くの皆様との感想ともかけ離れていると思いますが、これは私の感想文ですので。


登場人物について

メインとなる登場人物は、主人公である小熊(声:夜道雪)と、スーパーカブを通じて付き合いの始まる礼子(声:七瀬彩夏)、そして文化祭をきっかけに交流が始まるクラスメート、椎(しい)(声:日岡なつみ)。

基本的にはこの3人で話が進みます。しかも椎は後半にならないと登場しないので、前半は小熊と礼子の2人きり。いや、さらに言えば第一話は礼子すら登場しないので、ほぼ小熊ちゃんのみという…。

その小熊なのですが、ないないづくしと言ってる通り彼女にはいろんなものが欠落していると感じます。親については原作でその事情が語られているのですが、お金や趣味はともかく、彼女に一番欠けているものは、あえて言っちゃえば「社会性」だと思っています。
決して感情がないというわけではないのですが、極端に人見知りなところがある(ように思える)彼女は、友人が気づかって言ってくれた言葉に対してたった一言で冷淡に否定するところがあります。いくらなんでもあんたその言い方はないでしょ、と何度もテレビに向かって言いたくなりました。

そんな小熊に何かと絡んでくるのが、割とイケイケ系のキャラクターとして設定されている礼子。つっけんどんな小熊に対してあるときは合わせ、あるときは強引に引っ張っていくその面倒見の良さというか天真爛漫な性格が、ネクラに見える小熊を突き動かして話が進んでいきます。

後半登場する椎は、小熊と礼子が文化祭で足りないものを甲府まで調達しに行ってもらったことがきっかけで2人と交流することになりました。性格はマジメだけど芯が強い…で合ってるかな?とりあえずみんなに愛される系のキャラクターですね。

ネタバレはなるべく避けますが、後半に起こったある事件で小熊が椎の命の危機を救ったことがきっかけとなって小熊のなかで何かが変わり、最終話の旅に繋がっていくところは本当に最高で、カタルシスが浄化された気持ちになりました。
そこらへんまですべて通して思えば、「スーパーカブ」とは主人公の小熊がスーパーカブや友人たちとの出会いを通して社会性を獲得していく物語なのだと私は思っています。これもまぁ私が思っているだけなので、多くの方の感想と一致するのかは分かりません。

サブキャラもそんなに多くなく、学校のクラスメートや先生、バイクショップやホームセンターの店員、椎の家族(喫茶店を経営)、礼子のバイト先の人など…本当に必要最小限のキャストで作られてるよねこの話。

ただひとりだけ、小熊がバイトなどでお世話になる甲府の高校の国語教師を茅原実里さんが演じたことについてだけは触れさせてください。ここは私のnoteなので。歌手活動を年内で休止すると宣言した彼女ですが、このように声優としての活動が健在であることは嬉しき限りでございます。あの静かな世界の中で割と活発系な教師のキャラクターを演じられており、その発声で一気に世界に色を付けてしまう演技力は流石と感じました。


最後にこんだけは言わせて

静かで地味な作品の割にはそこそこ話題になったためか、この作品にもいろんなアンチが沸いています。いわく、

「原付アニメ「スーパーカブ」、二人乗りに「違反」の指摘も」

とかな、あと、

「レスキューも呼ばないで、あろうことか前かごに入れて救出とかワケがわからん」

これとかな。

お前らに対していまから一撃でハイ論破してやるけど準備はいいかな?


原作がそうなってんだからアニメに文句言うてもはじまらんやろバーカ!!


まぁそれで終わりにしてもいいんだけど。

まず二人乗りの件。フィクションに対してそれが合法か違法かなんてことを詮議してもしゃあない。創作の世界には盗んだバイクで走り出す15歳だっているんだから。
焦点は「小熊がそういうことをしそうなキャラ設定かどうか」でしょう?

私的には「しそうもないとは言えないんじゃないかな?」と思ってます。

小熊が人見知り気味で無口キャラだからそういう偏見も飛び出すのでしょうが、そもそも全編通して見てもそこまで真面目なキャラ設定はされてないように感じるのですよ。そんなこと気にするくらい真面目だったら修学旅行先にバイクで乗り込んできたりしないし、日々の食事だってもう少し栄養的に気を使ってもいるでしょう。

まぁだから、そこは問題なし、と私的にはしておきます。

次に救出の件。まぁ救急車を呼ぶべきとか警察に連絡とかは正論ですよね。それはそうだということにしときます。

でもな。

いまにも凍死するかも知れない友人がギリギリの状態から電話をかけてきていて、いま自分の目の前に走れるバイクがある。そいつが落ちている場所もだいたい分かる。

助けにいくだろうが普通は!!
何を差し置いても!!
大至急!!

救急が必要かどうかなんてのはそのあとの話ですよ。自分で救出できないと判断したなら呼べばいい。あ、ただね私の経験上のことを言っとくと、救急に事故状況を連絡してきてもらうって何気に難儀なのですよ。ちゃんと説明しないと何度でも説明を求められるし、来てくれることになっても割と時間がかかります。ピザ屋の方がまだすぐ来るくらいです(笑)。

それを置いといても、こういう批判をする人って「そのときその場に自分がいたら何ができるのか」ってことについてあまりにも想像力がなさすぎると思うのですよ。
加えて言うと「自分は緊急の状況でも必ず冷静に適切な判断がくだせる」と勘違いしているとも言えますね。

そういうお前はどうなんだって?

んなもんその場になってみなきゃ分からない

テレビの前であれはこうすべきだあぁすべきだってガチャガチャ言ってたって、その場に立たされたら正しい判断なんて1ミリも下せないかも知れないのが人間ってものです。あなたがレスキュー隊か自衛隊員だったとしてもそれは同じ。肉親や親友、恋人の危機を前にしても必ず冷静に行動するなんて断言できますか?


うんまぁね、実はこれが一番言いたかったんです今回の文章。
なんか読者の皆様には愚痴に付き合わせちゃったみたいで申し訳ない次第でございますが。


今後の「スーパーカブ」効果!?

前述したように「スーパーカブ」は、私的感想としては「アニメの形を借りたドキュメンタリー番組」と思っています。

この私の読みが正しければ、そしてこの作品が周囲にそのように評価されたならば、「こういう作られ方をするアニメが今後増えていくのではないか」と勝手に予測しています。

演出は最小限とし、ただただそこにある日常を「映し」、余計な解釈を加えることなく「出す」。

物語を演出的に見せる路線とは対極に位置する、人の日常をただただ映したドキュメンタリー番組としてのアニメ。

まぁ先のことは分からんけどね。
そういう注目をしていくのもアリなんじゃないかなーと。

ということで感想文終わります。
まだ書き足りないこと結構あるので、いずれ続きを書くかもです。

<お詫び>
文中すべての「小熊」(主人公名)が「子熊」と書かれていましたことをここに謝罪いたします。原作者の方にもファンの方にも失礼しました。大変申し訳ございませんでした。
すべて直したつもりですが、もしまた間違いを見つけられましたらご連絡いただけましたら幸いです。



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