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追悼、小野浩氏(Mr.ドットマン)

我が国のビデオゲーム初期に活躍されたグラフィックデザイナー、小野浩氏が、令和3年10月16日ご逝去されたとのこと。享年64歳だったそうです。

Mr.ドットマンこと小野浩氏は初期のナムコ作品におけるグラフィックを数多く手掛けたゲーム業界における伝説の偉人のひとりです。その名前を直接ご存じなくとも、『ゼビウス』、『ギャラガ』、『マッピー』、『ディグダグ』、『ギャラクシアン』、『ラリーX』…といった作品群のグラフィックが彼の手によるものだと言えば、その貢献度が分かっていただけるのではないでしょうか。生涯で実に80タイトル以上ものゲーム開発に携わり、その実績からビデオゲーム界隈では「ドット絵の神様」「ドット絵の魔術師」などと呼ばれておりました。

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当時の絵はいまのような3D-CG(ポリゴン)を用いたものではなく、人間がひとつひとつドットを描いていくものでした。ただ絵が描ければ良いというものではなく、規定のピクセルサイズの中に納めて如何にそれっぽく見せるかという技量が問われた時代だったのです。


グラフィックにおいて大きな制約を科せられていた当時、こうした特殊技能の持ち主はだいたいどのゲーム会社にもおりました。彼らは「ドット職人」と呼ばれ、ゲーム開発における主力の一角ですらあったのです。何でもそうですが第一印象は見た目で決まるので、優れたドット職人が在籍しているか否かはその会社のゲームが売れるか否かをそのまま左右する、それはそれはとてつもなく大切な要素でありました。

Mr.ドットマンこと小野氏は1979年にナムコに入社しております。この年はナムコで2作目となるビデオゲーム『ボムビー』、そして3作目となる『ギャラクシアン』が発売され、これ以降ナムコがビデオゲーム業界を席巻していく大きな流れを作っていった時期にあたります。その『ギャラクシアン』の美麗なグラフィックを担当したのが、まだ入社して間もなかった頃の小野氏だったのです。

その後のナムコは1980年に『ラリーX』、1981年に『 ギャラガ』、1982年に『ディグダグ』、そしてついに1983年にあの伝説とも言える大ヒット作品『ゼビウス』をリリースしていくわけなのですが、これら一連の売れ行きをビジュアル面で支えたのが小野氏のグラフィック技術であったことはもはや言うまでもありません。特に『ゼビウス』はその限られたドットで金属的な輝きを放つ兵器や飛行物体を表現し、その目を見張るようなグラフィックによってビデオゲームの価値を大きく引き上げた作品と言えます。

このあたりのことは下記書籍に詳しく出ています。ゲームに使用されたドット絵がそのまま掲載されているので、興味のある方はぜひ。


小野氏の活躍は昔の作品だけではありません。ウィキペディアの記述によればナムコ在籍中に『鉄拳バトルスクラッチ』(『鉄拳』のキャラが登場するメダルゲームらしい)、『ガンバレットフィーバー』、そしてなんと、あのアイマスのシリーズである『アイドルマスター ワンフォーオール』(ドット絵のみ)まで手掛けているとのこと。2013年にナムコを退職してからも、2016年に『キラキラスターナイトDX』、2017年に『NEO平安京エイリアン』(いずれもFC(FC互換機)向け/コロンバスサークル)などを手掛けており、割と近年まで現役で活躍されていたようです。


直近では「病と戦う伝説のドット絵師「Mr.ドットマン」小野浩の再起をドキュメンタリー映画に!『入魂 NEW/CONTINUE』」なる企画が持ち上がっており、本日確認段階で4,888,592円もの金額がクラウドファンディングにて集まっていました。小野氏も楽しみにしておられたでしょうに、志半ばとはまさにこのこと。本当に、本当に無念でなりません。


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上の写真は約3年前、2018年11月3日(土)に行なわれた「大橋照子&斉藤洋美の帰ってきたラジオはアメリカン」(聖蹟桜ヶ丘・アウラホール)のときのものです。このとき小野氏はサウンドクリエイターの中潟氏、慶野氏と共にお元気な姿でステージに立っておられました(左から中潟氏、慶野氏、小野氏)。私はこのとき初めて小野氏のお姿を拝見したのですが、結果的にそれが最後となってしまいました。


私も分野は違えども、電光掲示板という世界でコンテンツ制作を生業とする人生を歩んでまいりました。ゲーム業界に負けず劣らず、こっちもドットの世界です(むしろいまでもドット絵の比率が高いです)。そういう意味では小野氏に少しだけシンパシーを感じていましたが、私如きポンコツの腕では「ドット職人」など言うもおこがましく、Mr.ドットマンは遠き夜空に輝く一等星が如き存在でございました。

本当に星になっちゃうなんてね。
もう背中を追いかけることすら出来ないんだな…。

ということで、Mr.ドットマンこと小野浩氏のご冥福をお祈りいたします。
今晩は『ゼビウス』でもプレイしてから寝ることにします。

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