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原田隆之 著:「サイコパスの真実」

サイコパスと言うと、血も涙もない凶悪犯罪者というイメージがまず先立ち、興味本位の取り上げられ方が少なくなく、ネット上でも安易なレッテル貼りとしてよく使われる傾向があると思います。

少なからぬサイコパスは、その衝動性から、社会的にも成功しにくい。しかし、本書の著者、原田隆之氏は、社会的な適応水準の高い成功者の中にもサイコパスの人間が少なくないことを説く。

彼らは人当たりがよく、魅力的であり、人の感情を読む力を持っている。しかし、深く交流する相手に対しては暴君である。部下や提携先の人間も、利用価値がないとなると情け容赦なく切り捨てる。

スティーブン・ジョブスやドナルド・トランプもその類の人間ではないかと推測する。

トランプについては、専門家の集団が実際に研究を進めたとのこと。

アメリカには、昇進の人事選考の際に、サイコパスをスクリーニングできるテストがあるとのことである。

そして、サイコパスが向いている職業もあるという。腕のいい外科医、芸術家、研究者、スポーツマン、軍の指揮官など。

だいたい5%の人間がサイコパスだという。サイコパスの研究者自身が、検査を自分自身にやったところ、サイコパスと出て愕然とした事例も載せられている。

暴力と殺戮が荒れ狂っていた時代のほうが長い過去の歴史上、今ならサイコパスとみられるであろう人物が、英雄であったり指導者であることがあたりまえのことが多く、民衆も血なま臭いことに平然としていた。

著者は、人類が遺伝子を残し続けるためには、多様性を包含せねばならず、サイコパスの遺伝子もそのために淘汰されなかったのではないかと推測する。これなど、中井久夫先生が、「分裂病と人類」の中で、なぜ統合失調症の遺伝子が淘汰されなかったかについての仮説を立てる際の発想法に似ている。

サイコパスは、力あると認めたものには従順で、刑務所でも容易に模範囚となり、社会復帰してしまう。専門家も、そのためのキャリアを積んでいないと、容易に騙される。

彼らは、通常の更生プログラムでは、一層人身掌握術を学ぶだけで、逆効果ですらあるという研究があるというのは興味深い。

著者は、サイコパスの人物が、生育歴的に恵まれなかったことの結果とすることに批判的である。脳の扁桃体が有意に小さいという研究がなされているという。

この点については、私にとっては何ら新規な所見ではなかったが、一方、暴力や虐待が、CTやMRIで確認可能なくらいに脳の一部を萎縮させるという研究もあった気がする。

彼らを改善するには、認知行動療法のみが有効であるというが、その具体は、新書という枠もあるだろうが、さほど具体的には書かれていない。

ただ、彼らにとって魅力的な人物であること、改善したほうが、生きる上で「得」だとわからせることがポイントらしい。

・・・・以上、2時間ぐらいで読み、読み返すこともなく、記憶を頼りにざっと振り返ったので、レビューとしては失格だろうが、猟奇的な犯罪者の事例を延々と読まされるのに比べれば、公平な立場からの啓蒙書とは言えるのではないかと思う。

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