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三人姉妹の洋平タイム〜「火事のシーン」「だのにあなたは」 小林洋平


以下の2つのシーンは典型的な「あの手この手」手法である。
一貫した形式はなく、台詞を単語や一文字レベルまで分解し、手を替え品を替え聞かせようとするものだ。
例えば、「無知蒙昧な」という言葉は、違う意味に変えて、印象付けるようにした。
「無知蒙昧な」
「むちもうまいな」
「無知も美味いな」
怒られるギリギリまで台詞をいじって、かつ、台詞も聞かせたい、という実験をしているのかもしれない。


「火事のシーン」
他の俳優が人形の様に棒立ちになった状態で、一人一人の顔面に直接語りかけていく。火事の情景から次第に哲学を語り出し、未来への願望と生活への鬱憤が噴出し、初めて壁が動き出す。

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火事が起きたとき、わたしは急いで家(うち)へ駆けつけました。
通りは火で真紅に染まって、わあっという物凄いどよめき。―その有様を見たとき、わたしはその昔、不意に敵が侵入してきて、掠奪や放火をほしいままにした時にも、どこかこれと似た光景がよく起ったものだなと、ふと考えました。そばまで来て、この眼で見ると―家はそっくり無事で、火の手の危険もありません。‥‥‥‥‥


「だのにあなたは」
またもや棒立ちの俳優をいいことに、いや、助けを借りてやりたい放題、もとい、実験を行った。
「だのにあなたは、あなたは」と観客を指差しながら客席に侵入し、そのまま劇場の外に出て行ったり、そうかと思うと戻ってきて、立っている俳優を指差しながら「あなたは、アンドレイ!」と役名を告げた。「あなた」とは不特定多数の大衆でもあり、個人でもあるというちょっと気の利いた演出だった。 
あとから聞いた話だが、発語者が外に出て行って静かになった舞台では、俳優がお互い目を合わせたり、服装を直したりして、より豊かな時間が流れたという。(ちょっと悔しい)

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おやおや! わたしに言わせると、頭のすすんだ教養のある人に用がないなどという、そんな萎靡沈滞した町はどこにもないし、またあるはずもないと思いますね。まあ仮に、この町の十万の人口―それはもちろん、時代おくれな粗野な連中ばかりですが―そのなかに、あなたがたのような人は、たった三人だとします。言うまでもなく、あなたがたには、周囲のむちもうまいな、無知も、美味いな、無知蒙昧な大衆にうち勝つ、うち勝つ、串カツ、カツレツ、うち勝つ……‥‥


『三人姉妹』のルール〜動かない三人姉妹を超えるには闘うしかない
洋平タイムとは

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