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漫画漫遊 江川達也「源氏物語」

江川達也「源氏物語 第壱巻 桐壺」(2001)集英社


この本は「マンガを読む」という意識ではとても読むことができない、とてつもない作品です。

江川達也といえば、当時は「東京大学物語」や「まじかる☆タルるートくん」で知られる漫画家で、エロティックな表現で知られていたように思います。

その江川達也が描く源氏物語なのだから、当然エロティックな表現にはなるのだけれども、それだけではないのが本作品の魅力です。


ページを開くとすぐにわかることですが、マンガの背景には源氏物語の原文が描かれます。そして、その訳がフキダシによって示されるのです。

つまり、この漫画は源氏物語を「直訳」的にたどる漫画であり、まさに当世の絵巻物なのです。


その「解釈」もまた魅力的です。さすが江川達也の表現というか、源氏物語を文字で書くだけでは伝わらないようなエロティックな部分、セクシャルな部分も赤裸々に描かれます。

これは源氏物語を読むうえでもとても大事なことで、原文の向こうに見える性の出来事をどのように解釈するかは、登場人物の心情理解のためにもとても重要になります。

もちろん、これもひとつの解釈にすぎないとはいえ、多くの筆では描けなかったことが、見事に描かれていると思います。


本来、古典を読むうえでも切っても切り離せない「性」というものにしっかりと向き合っている作品にも思えます。これは、漫画家にしかできない、江川達也にしかできないことだったでしょう。


一方で、性的な描写以外もおもしろい解釈がたくさんあります。

一つひとつの場面を、絵と言葉で直訳的に丁寧に扱っているので、解釈がとても多面的に、わかりやすく描かれます。


ただ、この漫画を読み通すことはとても難しいでしょう。私自身も何度も挫折しています。

原文と口語訳、そして絵による描写という三つを照らし合わせながら読むのは、とても忍耐のいることです。

最初はエロティックな表現のおもしろさに触れるという、カジュアルなところから入っても、本文に触れていくうちに、源氏物語の深い世界にはまりこんでいくという。

なんともおそろしい作品だと思います。


上記のほか、kindle unlimitedでもご覧いただけます。



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