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「勝手に後書き」『対話力 私はなぜそう問いかけたのか』 小松成美 (1021字)

会話とは
「情緒的に言えば、心が触れ合い、重なり合う、そんな機会のこと」
会話とは
「お互いがお互いを受け入れること」
会話とは
「自分の思いを真剣に伝えられるダイアローグのこと」
会話とは
「選んだ言葉を空気の振動に乗せて届け、返ってきた振動とそれが意味する言葉をしっかりと受け止めること」
会話とは
「思いを乗せる言葉という乗り物」

作者の小松成美さんは中田英寿、中村勘九郎、イチロー、YOSHIKIなど様々な大物アーティストやアスリートの取材を成功させてきた人物である。強烈な個性をもった何人もの人物が身に付けた強固な防御服を「言葉」という道具を使って着脱させ、彼らの懐に入り込み、彼らの裸の言葉を受け取る。そんな人並外れたインタビュアーが「会話とは何か?」と問われたならば、答えが一つなわけがない。

彼女は、こう言う。

 人は機械仕掛けでもデジタル信号で動くコンピュータでもなく、その心は画一的な技術や法則なので計れるはずもありません。自分のことを顧みれば胸にある思いが簡単には言葉で表現できないものであることがわかりますのに、どんなにか繊細で、ときに鈍感で呆れるほど複雑で、ときに単純で暖かいこともあれば冷たいこともあり、柔軟なこともあれば頑ななこともある。自分でも呆れるほどつかみどころのない人の心は自分だけのもので、1つとして同じものではありません。人と向き合い、その気持ちを全て伝えあえると断言できる人などこの世にはいないと思います。

作者は「言葉」という人類のもつコミュニケーションツールを武器に人と対峙する一方、その武器の脆さや限界を知っている。「今この世界であなたのことを知っているのは私です」と言い切れるほど、インタビュー前にその人物の作品や全ての下調べを怠らないのは、その脆さを補うためかもしれない。

この本には彼女の経験知から、「対話」におけるテクニックも紹介されている。
・待つのも聞くのうち
・聞くことと話すことの比重は8:2
・コミュニケーションの可能性を狭める要因は二つ。人としてのマナーを守らないこと。そして心をフラットにできないこと。
しかし、この本を読み終えると、彼女が一番伝えたかったことは対話のテクニックよりも、「目の前の人を知りたい」を思う情熱や好奇心が何より大切だと言っているように思えた。

コミュニケーションの希薄化が問題視される現代において、彼女のようにとことん人と向き合ってきた人の経験が、より重要視される日がくるであろう。

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