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あの日、面接から逃げたこと

スマホのGoogle Mapを頼りに、ようやく目的地に着いた。サラリーマンの街、新橋に来るのは初めてだった。リクルートスーツに身を包んだ大学生の私が、高層ビルの前に立ち尽くす。前髪が目にかかってないだろうか。両手で前髪を左右に撫でつけて、そのままスーツの皺を整える。

今日面接を受ける会社はブライダルと飲食事業をやっている会社。説明会の雰囲気がよかったから一次面接に来てみた。一次面接は集団面接だそう。面接で何社訪問しても、オフィスを前にすると緊張してくる。

最初に自己紹介。○○大学から参りました、○○と申します。本日はよろしくお願い致します。
心の中の面接官が問いかけてくる。「○○さんが弊社を志望した理由を教えて下さい」
私が御社を志望した由は……志望動機は……私の志望動機……


就活を始めてから知ったのは、企業を志望するもっともらしい理由をつけなくちゃいけないらしい。給料が良いからだとか、福利厚生に惹かれたとかは事実でも言ってはいけないそうだ。それよりも今までやってきたことで、どのように企業に対して貢献していけるかを語らなくてはいけないそうだ。

私の志望理由なんて、そこそこお給料がもらえて残業が少なそうってことくらい。社会に出たこともないのに、自分にどれだけのことができるかもわからないのに、まともな志望理由なんて言えるか。


リクルートスーツを身にまとった一人の女の子が、立ち尽くす私の横を通りすぎた。女の子、じゃない。私と同い年くらいだろうに、彼女は一人の大人の女性に見えた。彼女はビルの前でベージュのトレンチコートを脱ぐと、歩みを止めることなくビルの中に入っていった。

彼女も私と同じ企業を受けるのかもしれない。集団面接で隣に座るのかもしれない。私は彼女よりも上手く話せられるだろうか。喉が乾いて、頭が痛くなってきた。呼吸するのがしんどい。

――また落ちるんだろうな。何十社受けて落ちてきたように、また。

動けなくなった。オフィスを前にして、足が止まってしまった。そして、私はそのまま面接から逃げた。

当時受けていた企業の採用担当の方々にはご迷惑をおかけしまくりで、今でも面接をすっぽかしたのは申し訳なかったと思っています。それでも集団面接なんて自分がいないほうがスムーズに行える…と考えてしまうくらい、私は不出来な就活生でした。

説明会では後ろのほうにちょこんと座って、質問もできず、そそくさと帰る。一方、最前列に座って、説明会の間も積極的に質問して、説明会が終わると採用担当に自分の名前を売りに行くような、自信に満ち溢れたように見える就活生たちもいる。

そこそこ名前が知られた大学出身というのが、履歴書で唯一の強み。私が就活していた当時は、売り手市場だったので書類選考はまあまあの確率で通った。でも面接に進むと落ちる。最終面接で何度も落ちた。

周りの友人がどんどん内定を勝ち取っていく中で、私だけこのままずっと就職先が決まらなかったらどうなるんだろうと思ってた。

就活に疲弊していた私は、なんとか採用をもらえた一社に入社することを決めた。


居酒屋の社員という肩書きが、ずっとコンプレックスだった。

初めて入社した会社は居酒屋を運営している会社で、先輩社員同様に店舗社員として配属された。学生時代も飲食店でアルバイトをしたことがなかったため、最初は覚えることの連続だった。お酒の作り方もわからないし、包丁もろくに握ったことがない。重い皿を持てなくて盛大に割ってしまったこともある。最初は自分よりも歴の長いアルバイトから仕事を教えてもらいながら必死で業務に取り組んでいた。

一緒に働くアルバイトや社員には恵まれていて、職場の雰囲気は好きだった。その分、大学の同級生と久々に会うときは肩身が狭かった。一流企業に就職した大学の友人に会うよりも、同じ居酒屋の仲間たちとくだらないことを言い合って飲むほうが楽だし、心地よかった。

辛いこととか、大変なこともあったけど、続けられたのは一緒に働く人たちが楽しかったから。

それでも電車に乗っているOLさんを見ていると、私はこんな学生のサークルのノリみたいな感覚で仕事してていいんだろうかとずっと思っていた。遊ぶように仕事をしている感覚が抜けなくて、自分に自信をもてなかった。

最近になって、転職活動をはじめた。面接は今でも嫌いだ。緊張するし、特にコロナの影響でWeb面接も多い。パソコン越しだと表情が見えにくいし、話すときのちょっとしたタイムラグなんかも気になる。

それでも、いざ面接をしてみると、今までやってきたことがするする出てきた。大学の時は何もしてこなかったから面接で何も言えなかった私だけど、今ならこんな仕事をやってきて、こんなことを心がけていたと言える。

今は面接官の質問に答えられる。居酒屋で、ちゃんと仕事をしてきたんだなと実感した。毎日遊びのような感覚で働いていたつもりでも、真剣に向き合っていた瞬間はきっといくつもあった。

2年半も働いていれば、失敗談も成功体験もそこそこある。上手く伝えられるかどうかは別として、振り返ってみるとこの会社に出会えたことはそんなに悪くなかったんじゃないか。

人見知りだった私は居酒屋での接客経験を通して、意外なことに人当たりがよくなっていた。最初はまるで会話できなかったけれど、今ではこちらからお客様に話しかけることにそこまでの抵抗はない。

接客を褒められることも増えていたし、なにより笑顔がいいねと言っていただける機会が増えたことで、身につけた人当たりの良さは私の武器なんじゃないかと思うようになった。

前の職場は好きだ。楽しかったし、今でもたまに働きたいなと思う。でも、今後は新しい環境で新しい仕事に挑戦したいと思う気持ちが大きくなってきて、転職を決意した。

このご時世で、これから何ができるかわからない。わからないから、踏み出してみたい。最初は思っていたことと違っても、やり続けるうちに得られることが絶対にあるから。今自分が立っている場所を間違いだなんて思わない。

あの日、面接から逃げたこともきっと無駄じゃない。

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李田センリ

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かめパン
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憧れの25歳OLになります。蟹座の女。好きなことはアニメを観ることと歌詞を読むこと。noteでは主に日記やエッセイ、アニメの感想を書いてます。最近はシャニマスに彩られる日々。