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かんたんキーワード:「地域」

 今回は、「地域」という言葉について簡単にまとめてみます。地域という言葉は、とても便利で、身近に感じられるものですが、その意味を考えると結構奥が深いものです。

 地域は英語のregionに対応しますが、『人文地理学事典』(人文地理学会編,丸善出版,2013,pp.88-89)の「地域」の項目を見ると、そう単純な話ではないようです。「術語としての地域は等質性や機能的まとまりによって他と区分される地球表面の一部のことである」と書かれていますが、その定着までの歴史は、地理学の様々な議論と関連しているようです。ここではあまり難しい話は私も分からなくなりそうなので、地域をとらえるいくつかの視点(区分)を紹介します。

【等質地域と結節(機能)地域】

 まず、等質地域と機能地域です。「等質地域」とは、「地域内部におけるある特定の指標や基準・定義の性質が等しい地域」で、「結節地域」はある中心点(結節点)を焦点として、人やものや情報通信の流動・循環の構造が認められる地域」と説明されています(前掲,p.39)。・・・・・・難しい言葉では分からないですね、かんたんキーワードを目指して簡単な説明を考えてみます。

 等質地域は、高校の地理で習う内容では農業地域の区分などが該当します。また、都道府県、市町村も、同じ階層にあるそれぞれの領域の関係は等質なので、等質地域と考えられます。これに対して結節(機能)地域は、通勤圏や都市圏などをイメージすると分かりやすいです。中心となる大都市(東京・大阪など)を結節点(結びつきの中心)として、周辺に形成されている衛星都市などを含む領域ですね。

【形式地域と実質地域】

 次に「形式地域」と「実質地域」について説明します。『地域概論』(木内信蔵,東京大学出版会,1968)によると、「形式地域」とは「行政、統計、調査、計画等のための枠になる地域」のことです。それに対して実質地域は、「地域は内容に従って合理的に規定されるものである」と説明されるように、その領域が何らかの実質をもった地域のことです。

 この形式地域と実質地域が一致していれば分かりやすいのですが、一致していないこともあります。都道府県境界や市町村境界などに住んでいる人の生活をイメージしてみましょう。自分が住んでいる地域より、となりの県や市の市街地に行く方が買い物で便利な場合があります。また、市町村合併が広域に行われた自治体では、形式地域としての行政領域は広くなりますが、実際の住民の生活圏やコミュニティは狭い範囲に限定されている場合があります。逆に、市町村を超えた人的交流が活発な地域では、実質地域は市町村の領域より広い可能性もあります。

【地域という言葉がもつ幅広さ】

 地域という言葉を考える際には、上記のような視点に基づく区分以外に、一般的な使われ方にも目を向ける必要があります。「地域づくり」、「地域振興」、「地域活性化」「地域交流」のように、地域という言葉はとても幅広く使われています。また、その場合の地域は、あまり厳密に定義されていない印象を受けます。私の考える限りでは、主に二つの視点があるように思います。

 一つ目に、比較的ローカルな(狭い範囲の)範囲を指す場合に地域という言葉が使われる傾向があります。「地域貢献」という言葉が用いられる場合、多くは身近な地域への貢献のことを指しますよね。これは、対面での人の交流やコミュニティが成立しうる範囲がそこまで広域にはならないこととも関連します。もちろん、最近は様々な情報通信技術や移動手段の発達で、人の交流は広範囲かつ多様なものになっています。その場合も、一定のローカルな場(地域)があって、そこに関わる人の範囲が広がっているといえます。

 二つ目に、新しい実質地域の形成を目指すために用いられる傾向を読み取ることができます。これは決してローカルに限定されるものではなく、新しい広域な連携を目指す動きを指す場合もあります。三遠南信地域などは典型例ではないでしょうか。愛知県の東三河、静岡県西部の遠州、長野県南部の南信の範囲です。都道府県の枠組みを超えた新しい地域連携は、人々の交流によって新しい実質地域としての意味を持ち、それがいずれは形式地域として定着することもあるかもしれません。国際的な視点では、国家を超えた地域主義としてのEUが代表例だといえます。

 これらのことを考える際、既存の地域より大きな空間スケールが指向されるのか、小さな空間スケールが指向されるのかによって、地域のあり方やその再編の方向性は変わります。たとえば、『政治・空間・場所』(山崎孝史,ナカニシヤ出版,2010,pp.79-83)では、ナショナリズムの説明において、政治的共同体である「国家」と、社会的・文化的背景を共有する文化的共同体としての「ネイション」の領域の大小の一致、不一致を説明しています。それぞれを形式地域、実質地域と考えると分かりやすいと思います。ただし、ネイションのような文化的共同体の場合、一定の地域を形成することができない場合があること、また、それが国家における民族を考えるうえで重要な問題であることも忘れてはいけませんね。

【地域が注目される時代】

 地域が注目される時代は、これまでもいろいろな形であったと考えられます。現代の日本の文脈では、人口減少などによる社会的機能の低下に対応して、「地域」が注目されているといえます。そして、地域をとらえる視点は関連分野(地域計画、地域社会学、地域経済学)にもたくさんありますが、地理学の役割も大きいと考えています。地域を曖昧な説明にとどめるのではなく、きちんとした定義に基づいて説明することは、地域に関連する様々な取り組みなどにしっかりとした意味づけをするうえで、重要なのではないでしょうか。

 ということで、「地域」については1つの記事では説明しきれないことが分かったので、今回はこのあたりにします。お読みいただきありがとうございました。

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