旅楽団 50

【50 最初で最後の物語】


ぶったまげたことに、僕たちは[特別特別最優秀新人賞]というありがたい賞をいただいたんだ。なんでこんな事になったかというとね。少し長くなるのだけれどさ…。

僕たちは病気の治らないタクトと、[イマ・市]の黄色い街のはずれにある小高く深い森の中で[ドキュメント・イル]の演奏会を[ちくわぶ]を使って眺めていたんだ。出てくる凄い演者さんたちに嫉妬して、あまりかっこよく無い演者さんたちに嫉妬しながらね。
そんな風にしていると、演奏会の後半半分すぎたころ、タクトの口からラデッシュが飛び出したんだ。これで峠を越せたねって、みんな喜んでさ。早速タクトを穴の中から引っ張り出したんだ。それで、快気祝いにパーティをそこで始めたんだ。そうしているうちに、クラリネットがさ。
「あれをやらないかい?」そう言うんで、
少し恥ずかしかったんだけれどタクトのお祝いに
『僕たちの強い強い気持ち達』を演奏したんだよ。
あんなに嫌いだった曲をね。
そしたら、亀の子だわしの亀の子のマイタケはね。ソロバンを分解して頭にかぶっていたコップの中にソロバンのタマを仕込むとね。僕の曲のテンポに合わせて、
『こんな素晴らしい日はない』って言う懐かしいポップスを演奏しだしてね。
僕らの演奏をタクトの体についている土を払いながら聞いていた、リンゴアップルパイという楽団の姫ガチョウのロンドことチリチさんはね。タクトの土を払う羽を止めて、
「ごめんね」そう一言言うと、あのバックの中から空気ドラムのスティックを取り出して
『最高の仲間たちをご覧アレ』って狂騒曲叩きだした。その三重奏をぼんやりした面持ちで見ていた、マジシャンの子供のチビッコいピエロのタクトは
「どうやらね!ずるいのんさ!」って大声で叫ぶと、少しふらつきながら近くの木に立てかけておいた昭和さんから借りているバンジョーをビシッと構えると、いつもの左利きのスタイルで、お気に入りの
『まず手始めに歌うにはちょうどいい歌』って、僕たちの最初のオリジナル曲を弾いたんだ。
ふらふらしながら弾いていたので、本当に危なっかしくてね。
僕は演奏中何度かタクトの横に言って支えたり、
「だいじょうぶぅ?だいじょうぶぅ?」って聞いたんだ。
するとタクトはあの笑顔で、
「すごく楽しいよ!」って、僕の質問の答えになっていない答えをよこすんだ。
そうして、僕たちのそれぞれの曲の音符たちは、
良いところを尊重しあって、
悪いところを指摘しあって、どんどんいい音を作っていくんだ。
良い音たちはいい曲を構成していく。
そうして最後には僕たちの4曲は1つの名曲をぽっかり生み出すんだ。
『てんぷらやま楽団は旅楽団』って、名前の曲にね。
自分で言うのも何なんだけれど、とてもとても素晴らしい曲でね。
何度も繰り返し繰り返し演奏してしまったんだ。
繰り返すたびに曲は変化を繰り返す。
洗練されて、磨きあがっていく。


ふと気が付いて僕は、
「ぶぅ!」って声をあげてしまったんだ。
[ドキュメント・イル]にいたはずの観客が、列をなしてこちらに向かってくるんだ。
どんどんどんどん森を埋め尽くしていく。もともと広い場所ではないのだけれど。その森を囲むように人々動植物、機械なんかもやってくる。挙句の果てにはあの最前列に陣取っていた王様までもが、牛車の乗ってやってくる。
僕らは驚く、演奏もやめるにやめられなくなっていく。
12回目の『てんぷらやま楽団は旅楽団』を演奏し終わってお客さんに答えているとさ。
観客たちはカーテンコールを繰り返してくれたんだ。僕らはそれに頭を下げる。
チリチさんとマイタケは理由を説明するんだ。
「仲間が病気なのよ!これ以上は無理をさせられないの!ごめんなさい」って、何度も何度も繰り返してね。

そんなことがあって僕たちは王様に呼ばれたんだ。
一人一人[よしよし]って、された後[ドキュメント・イル]の演奏会のステージにそのまま連れて行かれたんだ。病気の子がいるのならって、王様は大きなリフトを使わせてくれてね。[ドキュメント・イル]の街まで、ひとまたぎだったよ。そうして僕たちは[特別特別最優秀新人賞]を貰ったんだ。その賞の発表のお立ち台の上でお客さんたちから、
「あれって、リンゴアップルパイのロンドじゃない?」なんて言われていたんだけれど、チリチさんは
「い・ま・は、てんぷらやま楽団のチリチさんですよー」って、笑顔で答えていたんだ。舞台の上で、ちりちさんは僕に小さな声で、
「実はこんな事になるかもしれないって思っていたのよ。だから、ロンドのままじゃね…」
そう言ってウインクをしていたよ。僕はその時。
「大人は何て都合がいいんだ。ぶ」そう笑顔で答えると、チリチさんも笑っていたよ。
そんなやり取りをしているときにね。
マイタケがそっと呟くようにね。
「[ドキュメント・イル]まで行ったかいがあったよ」そう言いながらフフッってほくそ笑んでいたよ。
どうやらマイタケはあの演奏会の前に何かを仕掛けていたらしい。あの[特別編集プログラム]買いに行ったときにね。
ただ僕は、マイタケが何をしたのかは聞かないことにしたんだ。
そして、タクトなんだけど、タクトはお客さんに向かって、
「これで、オリはね。昭和さんの胸を張った所にさ。行って会うのさ!」って、少し青空デンデンムシの妹の様にわけのわからないことを言って、笑われていたんだ。
タクトの言葉を借りればね。
「本当にね、うれしそうだったのさ」って所だね。



ひとまずストックがなくなりましたので これにて少しお休みいたします。 また書き貯まったら帰ってきます。 ぜひ他の物語も読んでもらえると嬉しいです。 よろしくお願いいたします。 わんわん