九官鳥(7)

八十日目(体内時計の風景)

あたしがあんまり良く思っていない東側の窓から、朝日がスーッと音もなく忍びこんでくる。
少し時間がたつと壁に取り付けられたアラームがけたたましい音を立てて唸りだす。
[リンドウ]はアラームに素敵な笑顔を添えて、勢いよく飛び込んでくる。
「[先生]おはようございます!!」
「今日も元気だね」と、伝える。
ここ数日の朝は、こんな感じで始まっていく。
[リンドウ]は、朝の挨拶が終わると、テーブルや床を丁寧に拭く。
窓を開けてたまっていた蒸れた空気を外には掃き出し。
心地の良い風を部屋の中に取り入れる。
そこまですると[リンドウ]は一度部屋の外に出る。
そしてすぐに戻ってくると、黒字に白い文字[無敵]と書かれたマグカップと白い紙袋をあたしの止まり木の横にあるテーブルの上に置く。
そうした後で、あたしの鳥かごの前まで歩み寄り、小さい扉をそっと開けて中から、あたしを優しく抱いて止まり木へといざなう。
[リンドウ]はその前にある椅子に腰かけ白い紙袋をそっと開く。
中からサンドウィッチを取り出す。
それからあたしたちは、[リンドウ]の作ってきたサンドウィッチを頬張るのさ。
頬張っているときの討論会のテーマはきまってサンドウィッチの具材の話について。
辛いだの甘いだの、カブのピクルスは意外といけるだとか春雨もそこそこいいものだだとかをね。
でもすぐに[リンドウ]は独り言のようなブツブツをはじめだす。
討論会はいつものようにサンドウィッチの2口で終了する。
今日のサンドウィッチの出来は中々だったようで、
「うん、これなら[タリール]のメニューに加えてもらえるくらいの味わいになっているわ」と始まった。

2日前にあたしは
「[タリール]って言うのは、お店か何かの名前かい?」って、聞いたのだけれど、その時の[リンドウ]のサンドウィッチの出来栄えがいつもよりも悪かったらしくて、一口運ぶごとに遠くを見ながら
「これはずいぶん[タリール]の味から遠ざかってしまったわね。お酢の事についてもう少し考えなおしましょう。今日の帰りはこれに近い味のものを買って帰りましょう」とか
「これは完全に[タリール]の勝ちね。このセロリについての考察を見直さなくては。由々しき事態ね。あの旦那さんに聞いてみなくてはいけない」2口過ぎた後で聞いてしまったあたしが悪いのかもしれないが、あたしの言葉はその耳に届いていなかった。
[リンドウ]との会食は大体がこんな感じなのだ。
あたしは彼女の食事の時に見せる集中力を感心せざるを得なかった。
そしてこの紅い髪をした人間の時間の使い方がとても上手なのだなとも思ったよ。
[賢い]人間なのだなとも。

あたしをいままで相手にしていた人間たちは[時間を使っていく]人間と[時間に使われる]人間が居た。
[リンドウ]は、もちろん時間を使っている。

「あっ、すみません。サンドウィッチの事になるとつい」
いやいや、あなたは集中が過ぎるといつもそうですよ。




ひとまずストックがなくなりましたので これにて少しお休みいたします。 また書き貯まったら帰ってきます。 ぜひ他の物語も読んでもらえると嬉しいです。 よろしくお願いいたします。 わんわん