九官鳥(6)

七十日目(癖のある風景)

「いいかいよく聞いておくれよ。まずね、話の出だしに謝るのをやめにしてもらえないかしら?あまり良いことではないよ。そういう癖はね。ここにきてあなた達人間を色々観察させてもらったのだけれど、自信のないときにはきまって直ぐにあやまる。本当に謝らなくてはいけない時だってきっとあるだろう。そんなときどうするんだい?いつでもなんでもペコラペコラと頭を下げている者の謝罪って安っぽく感じられないだろうか?そんな安っぽいお詫びに相手の心は動くのだろうか?そんなこと、あたしたちの世界には一つだってないんだよ。そんなものはね」
[リンドウ]に伝える。
[リンドウ]ってのは、少し髪の紅い人間の名前さ。
昨日教えてもらったのだ。


あたしはその名前を初めて聞いたとき「なかなか良い名前だね」って、紅い髪の人間に伝えた。
すると[リンドウ]は、ふっと悲しそうな顔をしてね。あたしは個人の人間に向かって[心配]と言うものをしたのさ。
「どうかしたの?あたしはあなたの気の触るようなことを言ったのかしら?」
[リンドウ]は、いつかの様に首を左右にブンブン振ってね。小さな小さな声で、
「すみません。心配させてしまって…。実は私の名前…。林の道に捨てられていたので[リンドウ]って名前を付けていただいたそうなのです…。だから、と、言ってはいけないのかもしれないのですが、あんまり私は自分の名前が好きではないのです」言葉を選びながら説明してくれた。
あたしは、そんな[リンドウ]の告白を鼻で笑い飛ばしたのさ。
「ハンッ何だいそんなこと?例の[文字]ってやつにしてしまえば言葉は意味を持つだろうけれど。

けれどね、素敵な響きの音[リンドウ]って。

あたしが今まで聞いた名前の中では、好きな音の響きの5番の中には入るわね。そんな素敵な名前なんて、こちらの世界にもあちらの国でもそんなに多くはないとあたしは思うよ。後は自分しだい。あなたがその意味をどうとらえるかが大事でね。意味って言うのは自分が決める事でしょう」いつの間にか[リンドウ]は何時ものキラキラした笑顔に戻っていた。
「そうですよね」
あたしも[リンドウ]の心地よい笑顔につられて、口角が上がっていく。
「ええ。とても素敵な名前ですよ」って、伝える。
本当にそう思ったからね。


「ああ、すいません。なんですかね?私、いつも謝っていましたか?」
「だからね」
「すいません!私が謝ったりするのは、口癖ですかね?そちらの世界は、こんなのは無いのですか?そうですか…」『リンドウ』は本当にすまなそうな顔を向ける。
「だからね」って、あたしはまた彼女を笑いとばすのさ。



ひとまずストックがなくなりましたので これにて少しお休みいたします。 また書き貯まったら帰ってきます。 ぜひ他の物語も読んでもらえると嬉しいです。 よろしくお願いいたします。 わんわん