九官鳥(12)

百五十一日目(待ち合わせの風景)

[リンドウ]はゆっくりとした口調で切り出す。
「[先生]すみません。私、実はこの部屋に来るのは今日で最後なのです」
あたしは驚くこともなく
「ああ、そうかい」と。
正直[リンドウ]との会話は楽しかったのだけれども、楽しい会話を白い服の人間達が望んでいなかったことくらい、あたしも十分に承知していたからね。
白い服の人間たちにとってあたしは、ただの[研究材料]として見ているわけで。
[リンドウ]との楽しい会話には興味をそそるもの一つもなかったのだろう。
それにあたしの[警告文]にもまるきり興味がない。
何かの冗談のように思っているだけ。
無音の研究室に[リンドウ]の静かな鳴き声だけが響いている。
[リンドウ]に声をかけるのさ。
「ねぇ、[リンドウ]あたしは、あなたのおかげで、少しだけ、少しだけだけれども人間というものが好きになれたよ。それでね、あたしは人間の事が好きになったものだから少しあなたたちの街を散歩してみたいと思っていたのさ。だからあなた、もう少しあたしに付き合ってくれないかしら?朝、あなたと食事がとれなくなるのは寂しいし。あなたが進めてくれた[カジノフォーリー]と[てんぷら山楽団]の演奏も生で聴いてみたいし。[タンタン兄貴の話王]ってラジオ番組の公開放送を一緒に聞きに行きたいし。何て言ったって、あなたとの会話をもう少し楽しみたい。あたしの生まれた街にも国にも来てもらいたいしね」
[リンドウ]はとても嬉しそうな奇麗な顔を向けてくる、悲しい瞳のままで。
「[先生]。[先生]からのお誘いは、すごくうれしいです。私だって外の街を一緒に見ていただいて、聞いていただきたいもの紹介したい人や場所やモノ沢山たくさんあるんです。私も[先生]の世界にお供したい。だけれども、多分それはかなう事のない私の夢物語。何故な…」

言葉は紡がれる、あたしが、[リンドウ]の言葉を
「…ら、ここは研究室の中でも最高ランクに厳重な場所だから?」
そのあとで「クワッ」とか鳴いて見せる。
「ねぇ[リンドウ]あなたたちは、本当に自分たちの物差しで物事を考える。あなたたちの物差しは、あなたたちが勝手に作り出した世界。だから、古い人間たちが残していないこと。あなた方お得意の[文字]に書かれていないものを、[奇跡]だとか[不可思議]だとか言ってしまう。でもね、全部最初の最初からここにもあるのよ。あなた方の気が付いていないだけで、いくらでもこの世にはあるのよ。それこそ世界中のごみの様にチリのように転がっているわ。例えばね、あたしの姿があなた方には[九官鳥]と言う生き物のように見えるのでしょう?」って伝えた後、止まり木とあたしの足につながっている鎖をあたしはガチャリと外す。
そうしてからあたしは止まり木からそっと降りた。

[リンドウ]の反応。もちろん驚きを隠せていない。

あたしは上品な馬になる。
カエルになる。
ミノムシにだって。
どんなに小さなものだって、どんなに大きなものだって、変われるし代われるし替われる。
どんなものだって、作れるし造れるし創れる。
最後に顔の色をくるくる変える白い服の人間にかわる。(少々造形は私好みの美のエッセンスを落としましたが)

「ね、奇跡だとかってものは意外に身近に存在するのさ。じゃあ[リンドウ]先に行くわね。多分次に会う時は違う造形の人間になっているでしょうね。(この造形はあまりにも好きになれないからね)あぁ、でも違う人間の姿になったらあなたはわかりづらいわね。では、こうしましょうあたしは上等な格好で胸に[九官鳥]のブローチをつけてね…」
あたしはそう言いながら、霧が晴れるように消えていく。
消えていくあたしは、あたしの偽物を置いておく。
本物の[九官鳥]をね。
[リンドウ]に迷惑はかけられないからね。
まぁ、その[九官鳥]も葦とモミと、少々のわからずやを使って作ったものなので、3日と持たずに消えてなくなるだろうけれどね。
彼らが黙ったままの[九官鳥]を処分しなければね。
その意味も知らずに行えば、どういう事になるのか。

答えはあなた方にお任せします。

[リンドウ]は、あたしを見つけてくれるかしら?
[リンドウ]は、[九官鳥]の仕掛けがわかるかしら?
[リンドウ]は、あたしの言葉のウソに気が付いたかしら?

ま、あの娘なら大丈夫でしょう。
賢いから。

あたしはそんなことを思い描きながら、あの[タリール]と言う店に向かう。

2005年4月25日
2020年5月14日(再編集)

英(はな)

ひとまずストックがなくなりましたので これにて少しお休みいたします。 また書き貯まったら帰ってきます。 ぜひ他の物語も読んでもらえると嬉しいです。 よろしくお願いいたします。 わんわん