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「答え合わせ」の旅㉘

VSデルフト工科大学


車窓からの風景。「スタシオン デゥフト」に聞こえるこもったアナウンス。stationをスタシオンと呼ぶところもなんか好き。

私は今国鉄NSに乗っている。
Delft(デルフト)に行こうと決めたあと、現在地からDelft Stationの行き方を調べた。
平和宮の近めの停留所からトラムで行けるらしい。一見順調なのだが、手持ちのTourist Day Ticketがデルフトまでのトラムで使えるかわからない。
ここはデン・ハーグだから乗ることはできると思う。ただデルフトで降りるときこのチケットは機能するのか?
まずデルフトが何市?何県?なのかわからない。調べるか。

デルフト(オランダ語: Delft [dɛlft] )はオランダの南ホラント州にある基礎自治体(ヘメーンテ)。デン・ハーグ市街地の南に隣接して、一体となって広域市街を形成している。

Wikipediaより

わからんわからん。州とか基礎自治体とか新しい単語でてきちゃったよ。キソジチタイって日本で言うと何?
隣ってことはつまりはデン・ハーグなの?大体デン・ハーグだって市ではないよね、何?ハッキリかいてや。
停留所に着く直前にトラムは一本発車した。それによって検索時間が与えられたが、高速検索するも正解が手繰り寄せられず、次のトラムが来てしまった。
乗るか。降りるときエラーになったらオーソーリーとでも言って金を払えばいいじゃないか。
乗るときにも聞ければもっといいと思ったが、停まったトラムはアムステルダムと違って後ろの車両にカウンターがないこと判明。くそ。これでは運転手に聞くしかないのに後方車両で待ってしまったからそれも無理だ。

プシューっと開いたドアに一歩乗り込んだ右足が「やっぱ無理!」とホームに戻ってきてしまった。
この意気地無しの右足め。
絶対行けただろうけど確証がなかった。その確証を埋めるのはいつも9292なのに、今回は9292の守備範囲ではない。
わからないなら現地の人に聞くっていうコミュニケーションしかないけど頑張らなかった。あぁ。こうやって毎度私は頑張らなかった回数を数える。
去り行くトラムの背中を見送り、トボトボと平和宮前のバス停に戻る。デン・ハーグまで一旦戻って電車でデルフトに向かおう。時間と金を無駄にするが、愚かな意気地無しにはピッタリの結末だ。

もう既に平和宮の周りを何㎞も歩いたあと。
ここから駅までの距離なんてバスに乗るほどでもなく余裕で歩いたろうな、ともう一つの時間の無駄に気付きながらバスはスタシオン、デン・ハーグへ向かう。

デン・ハーグに戻ってきた。
トイレに行こう。トイレに行きたいから私はデン・ハーグに戻ってきたんだ。デン・ハーグまで戻る理由を正当化したかったのであろう。
やっと硬貨ができたから、駅の有料トイレも入れる。チャリンチャリンと確か70セントを挿し込み、バーをガガガと回す。この体験だって貴重なのだ。

デルフトまでの切符を買おう。硬貨がまだある。3EURO。初めて現金で切符を買えた。紙幣が利用不可の笑っちゃう券売機。

そうして乗ったデルフト行きの電車。この電車内で何本か動画を録った。車内アナウンスの「デゥフト」の音声が入り込んでいて、これは帰国後の私にオランダを思い起こさせるのに非常に有益だった。電車にして録画できて良かった。
何を選ぶかではなく選んだ先を正解にすればいい、とは誰が言ったものか。その通りだ。

デルフトはフェルメールの生まれ故郷。そしてデルフト焼きという焼き物が有名な街。この二つだけの知識を頼りにやってきた。

降りると、懐かしき運河。アムステルダムぶりだ。デルフトの第一印象は、のどかな街。水面がゆったりと揺れ、皺のような模様をつくりだす。
なんだかのどかで、この旅で一番ゆったりした時間を過ごせた。

デルフトにもし来れたら行きたいところがあった。
ロイヤルデルフト。デルフト焼きの総本山。博物館みたいになってるんだよね。もちろん調査済み。
ここでお土産を買いたいのだ。オランダらしいお土産って難しくて、いいお土産はここでガサッと買おうという作戦。運河沿いを歩くと、フェルメールの『デルフトの眺望』のモデル地と言われる場所に着いた。

心は何百年前かにタイムスリップし、フェルメールと自分を重ね合わせる。

今日も日差しが心地よい。なぜなら今日も今日とて寒いから。天気はいいが、気温は完全冬なんだよねぇ。
本日何回目のライブ配信も道がわからなく早々に辞めて地図を見る。

デルフト焼きのオブジェクト
でもこの指差す方向にロイヤルデルフトはなかったか気がする

橋を渡ったら道なりに進めばいいらしい。よし。隣の自転車専用道路はさっきから自転車の大群がものすごい。そして速い。若者たちが楽しそうな雄叫びをたまにあげる。やっとロイヤルデルフトの建物の側面が見えてきた。あとは道路を渡れば着く。

にしてもいい天気

おや。わぁ。いやぁ。これは。
目の前をビュンビュンと自転車が横切る。
何度右から左へ眼球を動かしたろう。
なんてこった。私が渡りたい方向に信号がない。たった20mぐらいしかないが、それさえも許してくれない。
タイミングを見計らう。次から次へと爆速自転車が横切り、私のために一時停止しようなんて自転車は皆無だ。
若者たちはある施設に吸い込まれてく。なんだあれ。
地図を見るとそこはデルフト工科大学。大学生か。授業直前か?次の講義がまもなく始まるんか?

数十秒経った。ちょっと待て。
さっきからタイミング計ってるけどダブルダッチより入り難しい。
ダブルダッチならタイミングをミスっても縄が2本自分に絡まるだけだが、いやうんあれも痛いんだけどね。
ここでタイミングミスったら死亡の未来しか見えない。
生きられるだけダブルダッチで引っ掛かる方がマシだ。

デルフト工科大学、しかも調べるとヨーロッパでも屈指の名門大学らしい。建築系では世界レベルだと。
そんな未来ある若者と私がぶつかって、怪我させたりなんてしたら地球の未来がおじゃんだ。
むしろぶつかって入れ替わって「君の名は。」して、私が世界的建築家として名声を得る?それもいいな。

急に止まる。あ、自転車たちは信号があるのか。
え、でもどの信号見てんの?いま渡っていいの?って聞きたいがチラリと目が合ったがそらされる。今しかないよな、え、でも間隔がわからん。もう変わる?え?え?
そんなこんなアワアワしてたらまたスタートダッシュ。
また渡れない。
あのマリオカートのあいつ、あのスタートで雲に乗ってメガネかけたあいつ。信号吊り下げて私にもプップップーン!ってGOサイン出してくれよぉ。

こいつこいつ

集中しろ。カーブを曲がってラストスパートをかける彼らがカーブ入口から途切れる瞬間。見極めろ。
ここだ。行け!
テッテケテーと滑稽な擬音が鳴りそうなへっぴり腰の小走りでやっとパスできた。ふぅ。

ロイヤルデルフト入口。お待たせ。
白と青が基調の美しいデザイン、堪能させていただきます。

ロイヤルデルフト入口