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短編『何も気にならなくなる薬』その140

食事によるカロリーの収支はだいぶ慣れてきた。
問題はここからどうやって運動を取り入れていくか。
週辺り150分のウォーキングが推奨されているそうだが、それだけでは筋力はつかない。
しかも歩きすぎても膝に負担が掛かるので良くない。
食事の制約も程々に、運動も程々に。
理屈では簡単だが、程々というのは結構難しい。
「食べたければ運動をしろ」これを心の格言にしているが、
「運動したくないから食べ物で制限しよう」
こんな気持もある。
人間やはり楽になる道を探しがちなのかもしれない。
しかし、とんかつが食べたい。
運動をして、尚且つ、ロースではなくヒレにする。
健康な食生活というのは考えることが多い……

さて今回はこの三つ。
「営業時間」

「ミウラ折り」

「親」

ミウラ折り?
[東京大学名誉教授 三浦公亮氏が考案した、宇宙構造工学の研究に基づく「小さな力で大きく開く折りの技術」を活用した紙の折り方]とのこと。

大きなものをコンパクトに畳めてかつ、開閉が簡単。
A2の紙がポケットサイズにまでなる。
知らないところで意外と遭遇している。
しかも破れにくい。


「みてみて、世界地図!」
そんなふうに無邪気な少年はもう我が家にはいない。
「今はね、アメリカにいるよ」
定期的に連絡をくれる息子は親離れが出来ていないと世間から言われてしまうかもしれないが、もしかしたら私が子離れをできていないから、息子はこうして連絡をくれるのかもしれない。
「そろそろ営業時間だから」
「あっ、そうだったね、じゃあまた連絡するね」
コンロに火をかけ、おでんを温める。
今でこそ不思議な話だ。そんなにお金が稼げる商売でもなかったが、こうして息子が大学を出て、海外で活躍するようなことができているのはお客様のおかげだ。
それに彼自身の努力もそうなのだろう。
「女将さん、今日も食べに来たよ」
最初でこそ和風な店内が、今では色々な国からのお土産で多国籍な雰囲気のお店になっている。
「しかし、タクミくんはすごい活躍だな」
「えぇ、おかげさまで」
「いや、ほんと、彼はすごいよ」
実際にどのようにすごいのかはわかっていない。それは私も一緒だ。
自分が経験しない世界にいる。それだけで何をしてたってすごいと思えるのだ。
「私はね、彼がミウラ折りみたいな人間じゃないかって思ってたんだ」
「ミウラ折り?なにそれ」
「わからない?例えば、ほら、ここに地図があるでしょ」
得意げに取り出した地図はポケットサイズの小ささだった。
「あの頃はこんなに小さかったタクミくんが、こんなふうに」
両端をつまんで広げると、想像していたよりも大きく広がった。
「こんなふうにね」
「たしかに」
程よく呑んだ常連さんは会計を済ませて帰っていく。


美味しいご飯を食べます。