weworkが拓いたフレキシブルオフィス業界の道
weworkは11/6に破産申請をしました(日本法人は独立した法人として事業継続)。weworkの破産について様々なコメントが飛び交っている中で、私なりにweworkが切り開いたフレキシブルオフィス業界の道を振り返っていきます。weworkは単なるフレキシブルオフィス・コワーキングスペース企業ではなく、間違いなく"不動産のその先"を目指した企業です。
weworkの創業 -ニューヨークのオフィスに見つけた"スタートアップのペイン"
wework創業の地はニューヨーク。オフィスのリース期間は5年~で中途解約は基本的に認められず、契約譲渡や転貸にも厳しい縛りがありました。そのような縛りは急激な成長を目指すスタートアップ企業にとって避けたい障壁でした。アダム・ニューマンとミゲル・マッケルビーはビルオーナーを口説き、空いていたフロアを借りて、オーナーと利益を折半する契約を取り付けGreen Deskというスペースを立ち上げました。最終的にニューヨークに7つの支店を持つようになったGreen Deskを売却し、その元手でwe workを2010年に創業することになります。
早速蛇足ですが、オーナーを口説く際の逸話があります。交渉が難航した二人はトルコ系のオーナーをバーに連れていき、ベロベロに酔わせて契約について合意を取りました。翌日オーナーが「そんな酔っ払っている時に話など無効だ!」と怒ったところ、ニューマンが「トルコの男はウソをつかないと聞いていたけど…」とつぶやくとオーナーは「そうだ、トルコの男に二言はない。」と契約を了承したといいます。真実かどうかは怪しいのですがスタートアップらしいエピソードですね。)
weworkが実現した価値 -ネットワークとフレキシブルネス-
weworkがまず力を入れたのは利用者同士のネットワークです。オフィス内のメンバーをコミュニティマネージャーが繋ぎ、自然と人が繋がっていくようなオフィス作りにも力を入れていました。コミュニティのオンボーディングを丁寧に行うことでweworkの思想に共感するユーザーや熱量の高いユーザーが集まるようになりました。また、weworkの拠点が増えるにつれてスタートアップにとって非常に喜ばしいことが起きます。従来はオフィスを増やすことについて大変なコストがかかりました。総務チームが現地に行って複数のオフィスを内見し、それぞれの契約条件をまとめて稟議にかける、といったことをしていたわけですが、weworkに拠点を持っていればすぐに希望の都市に拠点構築ができるようになりました。また、オフィスのないエリアで採用した有能人材にセキュアな環境で働いてもらうことについてもweworkのカード1枚を発行すれば解決されました。また、weworkの内装は世界中で統一感があります。これにより拠点間の移動を行ってもホーム感を得られたり、利用方法に戸惑うことも少なかったりしました。
weworkが挑戦したこと
入居者同士のネットワーク
weworkが拠点を拡大していく上で最終的にケアしきれなくなってしまったことが入居者同士のネットワークでした。これには当初weworkに集まった起業家達―。長時間働き、ハードシングスに耐える仲間、コミュニティを必要とする顧客層から会社員が多くなっていきました。多くの会社員にとっては他社・他者とのコミュニケーションは必要性がなく、起業家にとってもそういった人たちとのコミュニケーションへ価値を見いだせない状態が発生しました。weworkは顧客層の変化に対応した"新しいコミュニティのあり方"を模索していました。日本上陸時に"weworkのコミュニティは思ったほどではない"という話が出ましたが、起業家と会社員のウォンツの違いを調整することに挑戦していたものと見ています。wework labと名付けられたslackグループでは世界中で4000人以上のユーザーが入っていましたが求人の呼びかけには数件のweworkスタッフからのスタンプがつくだけでした。
誰よりも早い投資
weworkはIT企業であるという自認をニューマン・マケルヴィともにしていましたが、wework最大の情報資産は入居企業の成長情報でした。入居企業の契約状況を把握すること、コミュニティマネージャーを中心とした雑談から入居企業のビジネス状況を把握し、投資対象に引っかかるかどうかの一次スクリーニングを高い精度で実施できる見込みでした。あらゆるスタートアップがいつかはオフィスを持つようになる(特にコロナ以前の世界では)中で、世界中のオフィスから投資対象を検索可能になるのは破壊的な革命でした。
ちなみにPlug and Play本社は年間2万社のスタートアップと面談をしている(うろ覚え失礼)そうで情報のスクリーニングの優位性を感じます。
リスクの低い投資
投資対象はweworkの床がある限り入居、つまり家賃を払い続けてくれることになります。スタートアップ投資では打率が1割~2割と言われたりしまして、丸損しないためにファンドを組成し、ポートフォリオを組んでリスクをなるべく低くするよう設計されています。とはいえ依然リスクが高い投資といえます。一方で投資が家賃として返ってくる、という性質がある以上全体で見た際にリスクの低い投資となります。仮にスタートアップがExitせず、リビングデッドになったとしても家賃を払い続けてくれます。実際にweworkにはwework creator fundというCVCがグループにあり、Exitも出しています。
wework経営失敗最大の要因 -サブリース-
weworkの経営失敗最大の要因はサブリースにあります。サブリースとは転貸を指し、weworkがビルの一部を借りて更に他者に貸す行為です。weworkの拠点拡大スピードを実現するために大量の投資を必要としました。サブリースを行う上で、ビルオーナーとの家賃交渉が重要なわけですが、ここで強い立場にいられなかったことが主要因のように見えます。
2022年後半に40店舗を閉鎖し、23年春の債務再編で約15億ドルの負債を削減しましたがキャッシュアウトは免れませんでした。
この規模の話になるとさすがに"weworkのサービスレベルが低いから"といった緩やかな死ではないことがよくわかります。
ちなみに経営者がめちゃくちゃやった、というのは敢えて解説する必要もないのでここでは触れません。シンプルに法令遵守しましょう、です。
weworkに学んだ各社
weworkが業界の黒船であったことは間違いありません。国際的なカンファレンスではweworkのスタッフがしばしば登壇しています。また、地元の小規模なワークスペース事業者に"あそこにコミュニティがあるなんてウソだ"と敬遠されたりしていることも各国似たような反応です(私からすれば全く違うビジネスモデルなので比べることが変だと思うのですが、、)。
一方でweworkから学べること、また学び、自社の事業を伸ばしている不動産事業者が数多くいます。
入居者同士のネットワークでいくと、拠点間のコミュニケーションを強く促進する事業者は減りました。知らない人同士が繋がるのに重要なことはプロフィールではないことに気づいたのでしょう。フレキシビリティでは世界中に拠点を広げるのではなく、特定の国や地方で広げることで利用者のビジネスの世界規模に合わせた"世界中"を実現しています。ファンドの運用は入居者と入居者以外を組み合わせたポートフォリオに、ビルは借りるのではなく取得する方向で。借りる場合は極めてラグジュアリーなオフィスにし、単価を引き上げることで世界は進んでいます。
私はweworkを利用したことのあるユーザーとして、そしてフレキシブルオフィス、コワーキングスペースを愛する者としてweworkの足跡を偉大なものだと考えています。weworkは業界にとって大量のPDCAを、次の世代が育つ腐葉土を残しました。コワーキングスペースの業界にいる者としては勇敢なweworkの失敗から一つでも多くを学び、実践し、新たな良いスペースを作っていきたいものです。…きっと自分が投資していたらそうも言ってられないのでしょうが!
ちなみにwework Japanは進化し続けています。
スタートアップの支援プログラムや自治体との協業など新たな取組にチャレンジしています。引き続き目が離せない企業であり続けるでしょう。
ということで最後まで読んでいただきありがとうございました。
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