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漢文をどうやって翻訳するか

今日、中日ゲーム翻訳のトライアルで漢文が出てきて大苦戦しました。
中国のゲームテキストには漢文や漢詩が出てくることがあり、中日ゲーム翻訳者なら避けて通れないと聞いたことがあります。

漢文の勉強やリサーチの方法は自分なりにいろいろと試行錯誤しているのですが、まだ「これだ!」と思える方法にはたどり着いていません。
(もしそのような方法がわかったら、またブログでシェアしたいと思います)

現時点での私のやり方をご紹介します。

漢文調の文章が出てきたら、3ステップで処理します。
①知らない単語を徹底的に洗い出す
②とりあえずすべて現代日本語に訳す(書き下し文ではない)
③それっぽい文体・言葉遣いに直す

①知らない単語を徹底的に洗い出す

調べる方法はさまざまですが、今回私はジャパンナレッジの有料辞書サービスを利用しました。
お金をかけずに調べることも可能ですが、漢文の分野においては無料でたどり着ける情報には限りがあります。
私の場合は、漢文の知識が弱いのでツールで補っています。
ジャパンナレッジの料金や使い方については、こちらの記事でまとめています。
ジャパンナレッジの有料オンライン辞書を使ってみました|リリーほんやく事務所@中日翻訳者 (note.com)

翻訳学校の先生から、ジャパンナレッジはマイナーな漢文もだいたい網羅していると聞きました。
ゲームに出てくる漢詩が古典と一致していることはあまりないと思いますが、古典が一部引用されていたり、背景知識がないと訳せないものもあります。

漢文に出てくる単語をひとつずつ書き出し、意味をメモしていきます。
現代中国語の感覚で見てわかるものでも、古代中国語では意味が違うことがあるので注意が必要です。

また、ある程度知識がないと見当違いな理解をしてしまうことがあるので、漢文特有の文法知識もあったほうがいいです(基本的なことは日本のインターネットでも情報が豊富なので調べればすぐにわかることですが、予備知識があればその分調査が速くできます)。

例えば「夫」は漢文では「それ」という意味の指示語なのですが、これを字面通り「夫」と理解してしまうと意味がわからず時間を無駄にしてしまいます。

②とりあえずすべて現代日本語に訳す

一通り意味が取れたら、日本語訳を作成します。
このとき注意すべきなのは、「書き下し文ではなく翻訳文を作成すること」です。

以前のトライアルではここのところがわかっておらず、書き下し文を作って出したら評価が△でした。
(トライアル自体は受かりました。その会社はトライアルのフィードバックもしてくれたので勉強になりました)

この段階では意味がわかることが大切なので、文体などはいったん気にせず、とにかく最後まで訳文を作成します。

③それっぽい文体・言葉遣いに直す

ここから翻訳作業らしくなってきます。

漢詩を日本語にする場合、どのような文体にするか悩ましいところだと思います。
私もまだよくわかっていないのですが、以前先輩翻訳者さんに質問したら「少し古い日本語の表現を使うといい」と言っていました。
元の文体が古語なので、翻訳文も古文っぽくするということですね。
しかし、あまりにも古文調にしてしまうと理解しづらくなってしまいます。
あくまでゲームに出てくるテキストなので、もしわかるのであれば使われる場面やゲームの設定、文章自体の内容を考えて文体を調整するのがいいと思います(それが難しい)。

私は「少し古い表現」というのがわからず、夏目漱石の『薤露行』という小説を読んでいたことが一時期あります(青空文庫で読めます)。
夏目漱石 薤露行 (aozora.gr.jp)

漢詩の勉強方法

以前、漢文の勉強方法を翻訳学校で聞き、おすすめされた本を入手して勉強していました。
私が勉強に使っていた本をご紹介します。

漢文の基礎知識がまとまっているのですが、1990年に出版された古い本で、索引などのレイアウトが洗練されておらず、ちょっと見づらいです。
図書館で借りられましたが、見づらさがネックになり、自分で買うことはなかったです。
「小百科」という名前の通り、百科事典ほどの情報量はないので辞書のような使い方はできません。

このシリーズは唐詩以外にもいろいろあり、漢詩の原文と書き下し文、日本語訳がついていて勉強できます。
日本語訳がいまいちこなれていないと感じたので、自分なりにより自然な訳が作れないか?と考えたりしていました。

最近はいろいろと忙しくなってきたこともあり、漢文の勉強がおろそかになっていました。
今度はちょっと違う方法でまた再開したいと思っています。

今日思いついた勉強法ですが、Web漢文大系というサイトに漢文の原文・書き下し文・単語の意味がまとめられているので、それを見ながら自分で翻訳文を作成する練習をしようと思います。
王勃:杜少府之任蜀州 - Web漢文大系 (kanbun.info)

せっかくジャパンナレッジを契約したので、自分で作成した訳文とジャパンナレッジの『新釈漢文大系』に載っている日本語訳を比べてみるのもいい勉強になりそうです。
『新釈漢文大系』の日本語訳は、今日少し見た限りではかなり自然な訳でした。

漢文の翻訳は本当に難しいですね。
日本と中国は文化的に近いとはいえ、外国人に日本語の古文を見せて外国語に翻訳させるようなものなので、相当レベルが高いと思います。
でも難しいからこそ、できるようになりたいです。

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