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転生したら大谷翔平のキンタマだった件part3

キンタマを巧みにあやつることでモールス信号を発信することができるようになったタクロウだったが、難儀した。なぜなら、今の時代モールス信号を素の状態で通じる人間は、特殊な訓練を受けた軍人か、無線オタクくらいしか思いつかない。そしてそんな人間が都合よくそこらへんに居るわけがないからだ。しかしタクロウは思考を巡らせるなかでかなり確率は低いかも知れないが、可能性のある行動を思いついた。

「そうだ!医者の所へ大谷翔平をつれていこう!医者なら何かに気づいてくれるかもしれない。」

タクロウはいたってシンプルで確率が高いわけではないものの自分の存在を理解してくれる人間に会えるチャンスがあるかもしれないこの作戦にかけるしかなかった。

しかし大谷翔平は一流の中でも更にトップのプロ野球選手。体調管理は抜群で、めったなことで休むことはない。タクロウは大谷翔平をいかに早く医者に行かせるかを考えた。タクロウの思考はまた目まぐるしく闇を切り裂いていく。まるでタマブクロの裏側から今か今かと自分自身の出番を待つ精子達のように。タクロウはキンタマでさえなければ、世界が抱えるありとあらゆる問題に対する解決策を提示出来ただろう。しかし、タクロウにとって大谷翔平をいかに医者に行かせるかと言うことだけが重要だ。そのために世界が抱える環境、政治、紛争の問題をすべてを差し置いて思考した。

「そうだ、一か八かだが睾丸を捻転させよう!」

この世界で神にもっとも近い知識を持つタクロウが導き出した答えは大谷翔平の睾丸を捻転させることだった。いくら抜群の体調管理を行っている大谷翔平でも睾丸が捻転してしまえばひとたまりもない。幸いにも厳しい修行をつんだタクロウに取って睾丸を捻転させることは造作もない。しかし睾丸を捻転させることは、タクロウにとってもかなりリスクがあった。あまりに勢い良く睾丸を捻転させてしまうと睾丸が引きちぎれてしまうおそれもあるし、ひねりどころが悪ければ睾丸とつながる精索という部位が壊死してしまう可能性もある。今回の場合、タクロウは驚くべき精度で睾丸を半回転ほどさせ、睾丸の周りの組織に影響を与えないように睾丸捻転をおこなう必要があった。

しかしタクロウは恐れなかった。タクロウは何よりもリスク恐れることで行動を止め、このままただのキンタマという存在で朽ち果ててしまうことの方が怖かった。タクロウは意を決した。心のメイウェザーも「お前ならやれる」といってくれている。タクロウはMAKIDAIが行う軽やかなターンのイメージを持ち睾丸を「チュン!」とひねった。

「・・・・・いてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!」

タクロウが睾丸を捻転させると同時、グラウンドで練習をしていた大谷翔平は悲痛な叫びとともにその場にうずくまった。

大谷翔平はすぐに病院に運ばれた。肝心のタクロウもターンを行うと同時に意識を失っていた。大谷翔平はぐったりとしながらもベッドの上で泌尿器科のドクターの診察を受けた。

「大谷翔平さん、だいぶ具合が悪いでしょうが、大丈夫。私の見立てだと軽い睾丸捻転のようです。ただ幸い、睾丸はもう元の位置に戻っています。少し痛みが続くと思いますので、今日の所は痛み止めをだしておきましょう。」

ドクターがそう一言言うとタクロウの意識が戻った。タクロウは自分の試みが成功したことが分かった。目の前には医者がいる。何とかして気づいてもらわねばとタクロウは思うと、タクロウは練習したモールス信号の音をキンタマでつくりだした。

「・・-・ ・-・-・ ・・-・ ・-・-・ 」

キンタマがヒタヒタとしながら鈍いモールス信号の音が響く。タクロウは届いてくれ届いてくれ!と内心思いながら医者の目を見ながらモールス信号を発し続けた。

「おっ大谷翔平さん、キンタマが動くんですね。さすがは一流のプロ野球選手!これなら回復は早そうですな!はっは!」

医者はそうから笑いをするとスタスタと去っていってしまった。タクロウはまた絶望の淵に立たされた。睾丸がもげるかもしれない危険なリスクまで侵して得た物は何もなかったのだ。タクロウは世界でたった一人キンタマになったことを恐ろしいほど痛感した。そしてタクロウは意識を保ったままただただ残酷な現実にたいしふさぎこんでしまった。

痛み止めを飲んだ大谷翔平はたちまち、キンタマの鈍痛が引いていき、立ち上がれるほどにもなったので、とりあえず処方箋をもらうために病院の待合室の椅子に座った。待合室は殆ど耳や頭のボケてしまった老人が多く、受付の事務員も彼らとやりとりに苦戦しながら対応を行っていた。

大谷翔平は「冗談じゃねぇや、これは少し時間がかかるな」と思いながら椅子にどっしりと構えて自分の順番を待っていた。そうすると、隣に女性がふわりと座った。背丈は160cmくらいだろうか、見た目は20代くらいの小綺麗なワンピースに身を包んだ女性だった。女性は大谷翔平の存在に気づくと何度か顔を見ながらぼそっと

「大谷翔平さん?」

とつぶやいた。大谷翔平はやれやれと思いながらも

「はい。そうです。大谷翔平です。」

とぶっきらぼうに答えた。大谷翔平は女性をうざったく思ったが、そんな大谷翔平の態度に気にすることもなく女性はべらべらと自分のことを話し始めた。大谷翔平も自分の番が呼ばれるまではまだ時間がかかりそうだったので、女性に適当に相づちを打ちながら話を聞いていた。

女性の名前はエリカという。数学が好きな女性だったが、高校1年生の頃、脳に腫瘍ができてから通退院の繰り返しでまともに学校にも行けなかったという。ただ治療の甲斐あってか、腫瘍も小さくなり、これからたくさんいろいろなことにチャレンジするんだと息巻いて話していた。大谷翔平は彼女の身の上に少し興味を持ったが、相変わらず返事はぶっきらぼうだった。エリカが話しを終えると、タクロウは心を取り戻した。目の前が真っ白になったタクロウにとってはエリカの話は身にしみた。見ず知らずの他人だが、彼女にこれから明るい未来が待っているといいと心の底から思った。タクロウはエリカに対し何か言葉をかけてやりたかったが、自分が話すことはできない。ただ無駄だとは分かっていながらもモールス信号でこう伝えた。

「-- ・-・・ -・ --・- ---- --- ・-・・ ・・・ ・- ・- ・・-・- ・・・ ・- ・-・・ ・・ -・・- ・-・-- ・- -・--・ -- 」

タクロウはヒタヒタと音を鳴り終えるとどうせ通じないんだけどなと思いながらも彼女の言葉に勇気づけられたことに感謝した。

するとそのときだった。エリカはびっくりした表情でこういった。

「大谷翔平さん?今よかったね!とか言ってくれました?いや聞き間違いかな。何か暖かい言葉を感じて」

「いや言ってないよ」

「そうですか。ただ今のはモールス信号・・・大谷翔平さん!そうだキンタマです。あなたのキンタマのあたりからモールス信号!が聞こえてきました!」

(つづく)

※MAKIDAIは実在のMAKIDAIとは関係ありません。

※大谷翔平も実在の大谷翔平とは関係ありません。

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