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原作破壊と原作出世

『セクシー田中さん』の作者である、芦原先生がツイッター上でコメントを出した直後に執筆してX(旧Twitter)に書いたものを、推敲をしてnoteにまとめて公開しようと思っていたら、あのような痛ましいことになったため……。公開するのもストップしていたnoteです。4月になりましたので、内容自体は漫画原作作品の映像化に付いての内容で、多少は参考になるかと思い、改めて公開します。


「セクシー田中さん」
原作者の芦原妃名子です。

《ドラマ「セクシー田中さん」について》
色々悩んだのですが、今回のドラマ化で、私が9話・10話の脚本を書かざるを得ないと判断するに至った経緯や事情を、小学館とご相談した上で、お伝えする事になりました。

https://x.com/ashihara_hina/status/1750754375176466484?s=20

ドラマ化作品自体を見ていないので、良し悪しの判断は差し控えます。個人的に思った雑感を、少し。


①リスクと分母の違い?

こちらの意見が、まずは参考になりました。

何故原作クラッシャーな実写化が多発するかというと、
「原作の無い脚本をドラマ化する勇気がメディアにない」
に尽きる。
脚本家や監督の知り合いでそこに苦心してる人結構いて、
「原作付きで持っていかないとプロデューサーがうんと言わない」
or
「向こうが漫画原作でどう?って言ってくる」って

https://x.com/NoirAsmr/status/1751023372975427765?s=20

しかも、それでいて脚本や監督側が
「この原作が良い!」
と思って原作を想った企画立案しても、結局メディア側は
「じゃあその原作でもっと実績のある脚本(あるいは監督)にさせたらいいじゃん!」
ってなって元々原作を愛して実写化熱がある人よりも知名度や実績だけで優先的に仕事を振るんだよね

https://x.com/NoirAsmr/status/1751023966804971813?s=20

そもそも、クリエイターの分かる範囲の数は、以下のような感じです。

・日本脚本家連盟員→連盟員1631名(著作権信託者2385名)
・プロの漫画家→セルシス社の推計で6000人ほど
・書籍化されたラノベ作家→9082人
・日本推理作家協会員→590人(漫画家やイラストレーターも含む)

いくつか脚本家の団体はありますので、おそらく2000人前後でしょうか? ゲームのシナリオライターの数は分かりませんが、おそらく漫画家・ラノベ作家・推理小説家・純文学系作家・ゲーム作家の総数は2万人以上で、日本全国の脚本家の総数より、10倍以上いるでしょう。

そんな漫画家や小説家の中から、出てきたヒット作品が、アニメ化やドラマ化や映画化されるのが現状なのです。

②予算の違いとハードル

小説や漫画に比較して、アニメやドラマや漫画は予算が桁違いです。
30分アニメの制作費は1話あたり1300~1500万円ほどとか。
プライムタイムのドラマは平均約2000~5000万円。
映画は億単位。

これでは、失敗した時のリスクが大きすぎます。
オリジナル企画に、プロデューサーが二の足を踏むのは当然ですね。

原作改変ってワードがトレンドにあるしその騒動の中身もネットで見た。私もメディア展開したことのある漫画家としては「原作者」はあくまでも「原作提供者」なんだよね。メディア側が話聞くのは金を出す側の人のみ。ウチもバ○ンダイ経由で文句言ったらコロッと態度が変わったよ。

https://x.com/GLC09BK88PGot7U/status/1751165023228203415?s=20

そういう中で、漫画家や小説家側も、最初から宣伝と割り切って自由に制作サイドにアニメや映画やドラマを作って貰う作家、ある程度は意見を出す人、譲れないところは譲らない人、それぞれグラデーションがありますね。

③シナリオ版なろう開設

ただ脚本家の一部に、小説や漫画原作が映画界をダメにしたとか、八つ当たりや逆恨みのような発言があるのは、残念です。

前記のように漫画家と脚本家では分母が違いますし、投稿サイトがある小説、出版社を通さないSNS発のヒット作さえ多数ある漫画に比較して、脚本はアニメドラマ映画にならないと評価が難しい面もあります。その意味では、漫画家や小説家より評価を得にくく、不利です。

そこを埋めるには、自身の脚本案を小説仕立てにして、小説投稿サイトにアップして人気を得て、プロデューサーがドラマ化や映画化を依頼してくるように仕向けるのも、ありでしょうね。

プライドが邪魔して難しい人もいるでしょうけれど、例えば日本シナリオ作家協会は、『年鑑代表シナリオ集』という形での刊行をやっていますから、その応用としての、新人のシナリオ作品の公開と評価を、なろうやカクヨム形式で募ると。

④読者に揉まれる必要性

盗作を心配する方もいるでしょうけれど、むしろ公開したほうが盗作の発見も早く、また動かぬ証拠になりますし。ネット媒体に偏見がなければ、自前で運営するのはありではないかと。

カクヨムなど筆写の狭い経験から申し訳ないですが、それでもシナリオ形式のままでも、普通に読者に評価されますし。面白い作品なら、全体を上げなくても、導入部で惹きつけられますしね。

小林靖子「文章というか、小説の地の文が苦手。セリフを考えるのは好きなんです。だからシナリオは書ける。ト書きには美しい文章や独特な表現はいりませんからね。小学生の頃からノートにセリフのやり取りだけを書いて、脳内で映像化して楽しんでいました」

https://x.com/scenarionavi/status/1751062008227856760?s=20

プロが無料で作品を上げるなんて……という人もいるかもしれませんが。小説より手間がかかる漫画でも、無料でSNSに上げてヒットにつなげた作家は、多数いますから。

ラノベや漫画は、読者の厳しい批判を乗り越えて、ヒットにつなげていくので。そういう鍛錬の場と、大衆の支持をちゃんと可視化する場は必要でしょう。プロの評価とは別に、ですが。

⑤著作人格権的な意味で

著作人格権のことを考えれば、むしろ最初に小説として作品の評価を得ることは、有利な面もありますね。

脚本はどうしても、総合芸術としての映画・アニメ・ドラマの一部を構成するものですが。脚本自体をちゃんと書籍化できれば、それは脚本とはまた別の、独立した著作物で、なおかつ独立性が高い存在です。

もちろん、原作付き作品のシナリオ仕事では、ここらへんが難しく。絲山秋子先生の小説『イッツ・オンリー・トーク』を原作とした映画『やわらかい生活』の脚本は、『年鑑代表シナリオ集』への収録で揉めて、裁判で争うことになりましたが。

MANZEMI講座的には、漫画と小説と脚本の、横断的な作話技術を夢想していますので、ここらへんは興味がありますし。もっと建設的な形で、クリエイターがWin-Winの関係になれば良いのですが。


このような内容を書いた直後、衝撃的なニュースが。
内容的には大したものではないですが、なにか便乗しているように見えるのは、本位ではありませんでしたので。
せっかく書いたものですので、公開しておきます。

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