詩『タダシイニンゲン』



「言わなきゃ分からないよ」
無口な私を無理やり喋らそうとする先生。
元気よく手を挙げて積極的に発言するクラスメイト。
タダシイ。
みんなの前で自己主張ができない私が間違っている。

「今、女子高生の間で話題のスイーツ!」
私を除外する、テレビ番組の編集。
大袈裟なリアクションをとるタレント。
タダシイ。
女子高生なのに、流行りについていけない私が間違っている。

「全てが嫌になった。幸せそうな奴ら全員、道連れにしたかった」
そう語る殺人犯。
間違っている、間違っている、
間違っている。



マチガッテル?


「犯人の精神は異常ですね」
そう語るコメンテーター。
イジョウ、イジョウ、イジョウ・・・

タダシイ、タダシイ、タダシイ・・・


正しい?



凶悪な殺人者に共感してしまう私はきっと正しい人間ではない。
だけど、殺人を犯す前の一人の青年と私。
二人はどこが違うというの?
青年の生い立ち、生活環境、周りの人たち。
恵まれていなかった。
罪を犯す直前までは、ただの苦しむ一人の人間だった。
誰にも助けてもらえなかった哀れな青年。
運が悪かったんだね、きっと。

正しい人、正しい意見が本当に正しいものであることは分かっている。
正しい人が作ったルール、法律に誰もが疑わずに従う。
この世の秩序を保つためには絶対に必要なこと。分かってる。
そこからはみ出てしまう私たちは正しくなくて、罰を受ける。
罪を償い尽くしたとしても
地獄に堕ちろ、と呪いをかけられる。
それはタダシイコト、タダシイコト、タダシイコト・・・

私が今から、包丁を手に街へ繰り出せば、一瞬で異常者になれる。
ああ、世間の評価は何も間違ってなんかいないね。
心の底からそう思う。
私はいつも、世の中の大部分には含まれない。間違っている側の人間なんだ。

 
**************


紙と鉛筆が死刑囚に支給される。
花の絵を描くように命ぜられる。
頭の中で咲く花を、思い思いに表現する。
紙の上には美しい花が咲いている。

私はこの先もきっと、タダシイニンゲンにはなれない。
だけど、死刑囚が描く花も、道端で咲く本物の花も、両方美しいと感じる私のことをずっと信じていたいんだ。

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