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ゼロから楽園を作り出す、みどり。

桜の季節は美しい。別れと新たな出会い、どちらも見届ける薄桃色。それが風に攫われてぶわっと若葉の緑に変わる時、やっとその年が始まった気がする。つやつやした柔らかな緑の命が、いくつもポコポコと生まれる匂いがしてくる。

緑色はそれぞれの土地の気候によって、解釈が何通りもある色だった。

北半球の四季がある世界では「若さ」から始まり「成長」を表し、「再生」に帰結する色だった。日本では古来から乳幼児を「みどりこ」とよんでいたし、西洋でも英語のGreenはGrow(成長)と語源は同じだと言われている。年間を通して色が変わらない松や柊などの常緑樹は「永遠不滅」の象徴で神事に使われる。冬が来てどんなにその色を失おうが、その先に必ず緑が再生し輝く世界で生きているからこそ、この価値観は根付いたのかもしれない。

常夏の、いつも緑生い茂る国では、緑に対しての関心が薄いという。いつもそこにあるものだから。それはまた「永遠不滅」のイメージにつながる。いつでもそこにある、当たり前のようにある、数少ない永遠が緑なのだ。

では、砂に覆われた乾燥地帯ではどうだろうか。ここにはまた緑の新たな顔がある。水も極端に少なく、生命がほとんど生まれる気配すらない砂漠では、緑は絶対的に大事にされる「生命の源」だ。緑が育つ場所には乾燥地帯で最も大切なオアシスがあることになる。アフリカ北部のモロッコには「私の鎧(あぶみ)は緑色」という諺があり、「乾いた場所にいって雨を降らせよう」という意味になる。これだけ恵みのものとして扱われる、緑。オアシスの始まりを告げる色。その憧れが呼び名に反映され、アラビア語の緑(أخضر アフダル)の語源は「楽園」を表す言葉だといわれている。

ゼロから命として生まれ、若さを称えてどこまでも成長する。そこで永遠の楽園を作り出す。
緑はそんな色なのだ。



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色にまつわるコラム・エッセイ集始めました!

歴史、文化、細かい色の名前などから
色の世界をのぞきます。


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