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声を介さない対話

その方のことは、少し前から存じておりました。

文章は、書いた方の心の瞳や、それにかかるフィルターの色が濃く表層に出て参ります。そして、それはその方のほんの一部。見えている文章の奥にはピラミッドが末広がりに続くように、奥行きがあるのです。

仲さんのそれは、とても静かな色をしているように、前から感じておりました。静かで優しい色。心の瞳はきっと星の浮かぶ夜空のように深い。深いけれど、そこに踊る星々を飲み込むよりは包むような優しい夜空のような深さを、仲さんの文章からいつも受け取っていたのです。

そんな仲さんが、こんな素敵な取り組みをやっていらっしゃいました。


昨今、noteの世界では、個人の方が賞を設定したり、コンテストやイベントを行うという新たな動きがたくさん起きています。noteはネットの中でも段違いに優しい世界でありますので、個人イベントも優しさに満ちていることが多い。仲さんのそれも、その一つでありました。

これはコンテストではありません。ただあなたが過去に書いたnoteで読んでほしい文章を私に対して送ってくださいというものです。
そして私が読む。それだけの取り組みです。

何かしらのフィードバックを考えておりますが、なかにはそういった事すら望まない方もいらっしゃるかと思われます。その場合は「ただ読んでほしい。」と書き添えて送ってください。読んだ証としてスキマークだけ押します。


なんと温かさに満ちたことでしょう、と思いました。多くの書き手にとって、敢えて読んで頂くというのは何よりも有り難いと同時に、大きな恐怖の行いでもあることを全部ご想像された上での設定でした。相手の望む形でのフィードバックというのは難しいことであります。弱すぎても強すぎても違ってしまう。でもそれをご自分の時間を割いて行うというのですから、脱帽するばかりでした。

私自身、自薦のエッセイを読んで頂くのが初めてで、是非とも率直なご所感を頂きたいと思ったものの、どれを選ぶか暫く悩みました。お時間を頂くからには自分の特別なものを、と考えた末、2つのエッセイを送ることになりました。



一つ目は私の大好きな人たちの好きなものを巡るやりとりについて。私の大事な人たちにはタバコを吸う人が多くいます。意図して喫煙者を選んでいるわけではないのだけれど、思い出にはタバコの香りが共にあるので、いつしかそれもまた特別なものになっていました。その気持ちを書いたエッセイです。

完璧に自分の思い出と嗜好だけで筆を走らせたものであったのにコメントをいつもより多く頂いて、それは何故だったのだろうという疑問がずっとありました。
その問いに対して仲さんは、とても素敵な小話とともに、一つの答えをくださいました。


煙草のエッセイですが、これは口説きのエッセイですね。
男はどうしようもなく繊細な生き物なので、自分の弱さを責められることにはめっぽう弱いですし、自分の弱さを許してもらえると安心します。
昔、酒に酔わないと女に告白もできない男がおりました。
酔った勢いでしか女に愛の言葉も囁けないので当然もてません。でもある日、とある女性が男に声を掛けます。
「私は酔って電話を掛けてくる男、好きよ。私だってそうだもの。でも思うの。酒の力に頼らず声を掛けれる日が来るといいねって。」
男は一発で落ちました。恋に落ちたのではありません。
憑き物が落ちたのです。
それ以来、酒の勢いで女性に声を掛けることはしなくなりました。
以上、これは今考えた創作話ですが、こういう人間の本能に沿った文章は人の心を揺さぶります。
反響が大きかったのもきっとそういったことが要因でしょう。


【口説きのエッセイ】という言葉に、深い納得感を得ました。自分でも読み返してみると、私自身が私の大切な人たちのことを、ダメなところも含めてどれだけ好きかということが溢れている文章でした。そして、同時にその人たちを愛することで愛された歴史の一片でもあったのです。その気づきと共に、仲さんにお返事を書きました。


早速読んで頂き、誠にありがとうございます。
口説きのエッセイという感想を頂けたこと、とても嬉しく、また新鮮でございました。
タバコやお酒が人の弱さを表すモノになっていることは確かですね。私はそういうものから離れられないところをまた可愛いと思いながら、私自身の弱いところを自分で許しているのかもしれません。
仲さんの創作小話もいただけるなんて!この女性はきっと瞳になんとも言えない優しさをたたえたセクシーな人でしょうね。
口説きのエッセイをまた書けるなら、もっとセクシーな文章をかけますように、精進いたします。



二つ目は、大好きな砂漠に初めて行った時の思い出を文章に起こしたものにしました。


ゆっくりすごしていたある日、私は砂漠の美しい風景を頭の中に再生してその中を跳び回っていました。砂漠の柔らかい砂に足の指が一本一本掴まれる感触。砂山の高さを下から見上げた美しさ。そこに登って滑らかな山肌に太陽がさ支えられるように浮かんでいた光の全て。ふとそれを文章に起こしたくなりました。そこで、noteを開いたのです。noteで書き続けるきっかけとなった文章でした。

仲さんのご所感は、温かなアドバイスと共に私を包んでくださいました。

「砂漠を愛している」拝読いたしました。とても感銘を受けました。
noteを始めるきっかけとなった文章とのこと、だとしたらちぃころさんの書くことの原点ですね。
エッセイの形式をとられていますが、詩文の色が濃い作品だと言えると思います。
これはとても大切なことです。人間の生きること、その中心には必ずポエムがあります。理屈を超えた飛躍が言葉として心に浮かぶ時、その言葉は全てポエムとなりえます。
ドイツ語で詩人はディヒターと呼ばれるそうですが、詩人以外の意味に未来を予言する人という意味があり、とても尊敬されているそうです。確かそんなことがヘルマンヘッセの『車輪の下』の後書きに載っていたように思います。
きっとちぃころさんは砂漠の光景に生命の生と死を感じたのだと思います。
ところで砂漠の夜空は綺麗でしたか?
この世の一番美しいことは澄み切った空間のその先にあるそうです。
夜空は黒ではありません。現実に人間が想像もできないほどずっと遠くにある星の光がこちらに届くほど空というのは澄んでいるのだそうです。 ってこれもヘルマンヘッセが言ってました。 
“砂漠に行ったことない方に砂漠に興味を持っていただくことをゴールに書きました。”
このようにちぃころさんはおっしゃいましたが、ここで僭越ながら一つだけアドバイスさせてください。
私はこの経験をちぃころさんの大切なものとしてnoteの1ページに留めておくことをお勧めします。
そして大切な人がちぃころさんの人生に現れたなら、その人と一緒に砂漠に行ってみてください。
それがこのnoteの生まれた理由のように感じます。


何度も何度も読み返してしまいました。それだけ嬉しい気持ちでいっぱいだったのです。私が書き始めた原点も、砂漠を愛する気持ちも一緒に大事にして頂いた気がしました。それが何より有り難くて。砂漠の夜についてもお返事を書きたくて、仕事中もずっと思い出していました。


夜分に申し訳ありません。いま、仕事から帰宅しました。
早速お読み頂けてとても嬉しいです!そして、感銘を受けたなんて...書いた意味がまた増えました。 
確かに、感情と言いますか、表現したい何かがある一定の域を超えた時、それは文の形では表すことができなくなり、詩や、何か唄みたいなものに乗せなければ表現出来なくなる。そんな気はしていました。その何となく感じていた感覚を、仲さんの言葉でまたひとつ知りました。これは、理屈を超えた飛躍なのですね。 
ドイツでの詩人の役割は、他の国に比べて段違いですよね。私もクラシック音楽をやっていた時期が長く、多くの作曲家がゲーテの詩に感銘を受け曲を書いていたことを少しだけ存じていました。でも、未来を予言する人とまで言われているとは。素敵ですね。 
砂漠の夜の空は綺麗でした。そして、どこまでも球体でした。地平線ギリギリまで、空全体に星が散りばめられているようだったので、そこで初めて空は上にあるだけではなく、横にある。つまり丸いんだと気づけたのです。その球体の線に沿って、天の川もまぁるく曲がっていました。
そうですね。空から星の光が僅かに届くことを、私たちは当然だと思いがちですが、それは空が限りなく澄んでいるからなのですね。素晴らしい気づきを、ありがとうございます。 
大切な人を砂漠に連れて行ける日まで、大切にnoteの中にひっそりと温め続けます。その日が今から待ち遠しくてたまりません。


理屈を越えた飛躍は、文章という形を超える。

あの文章を書いた時の気持ちは理屈を越えていたんだ、と大きな気づきを得ました。これからもそんな文章を書けるぐらい、たくさんのことを経験し、味わっていたいと思っております。

文章を自ら書くことも、そして人の書いた文章を読むことも、受け取るばかりでなく、相手の脳の中と声を介さず会話をするようなものだと思ってきました。特にエッセイなど、本人の人生から抜き取ったものを文に直接起こしたものは、書くことで本人も何かが消化し、読んだ方も気づきや何かを得ることができると考えてまいりました。

#あなたのnote読みます  での体験は、仲さんの深くとも優しい世界の中でそれを体現することができ、とても幸せなひと時となりました。心から感謝の気持ちでいっぱいでございます。

そしてなんと、仲さんもまた私のnoteを読んでくださったご所感を文章にしてくださいました。


本当に本当にありがとうございます。

#あなたのnote読みます  は引き続き募集していらっしゃるようです。まだの方は是非とも。



いつもありがとうございます。 頂いたサポートは、半分は新たなインプットに、半分は本当に素晴らしいNOTEを書くクリエイターさんへのサポートという形で循環させて頂いています。