見出し画像

花束みたいな恋をした

大学1年生の夏、初めて恋をした。

彼は医学部の1つ上の先輩で
部活が同じ剣道部だった。

入部したてのときに
推しの先輩は誰?
とよく聞かれて彼の名前を挙げていた。

最初は頼りになる優しい先輩
としか思っていないつもりだったけど
今考えてみれば一目惚れだったのかもしれない。

剣道が強くて
頭が良くて
背が高くて
顔がタイプ
性格も穏やかで優しい

完璧な人だった。

4年9ヶ月付き合った。

付き合いたては何をするにもドキドキ。
手を繋ぐだけでも顔が赤くなってしまうくらい。

ほとんど毎日一緒にいた。
大学で授業を受けたあと
部活を終え帰宅し
一緒にご飯を作って
その日あった出来事を話しながら食事をして
ぎゅっと抱きしめ合って癒されながら眠りにつく
そんな日々だった。

ただ隣にいるだけで幸せだった。


4年以上も一緒にいると
言葉を交わさなくても心が通じ合っていた気がする。


お休みの日は旅行にも行った。
彼のお父さんもお医者さんで
家にほとんどいなかったから
彼はあまり旅行したことがなかった。

だから最初は
「旅行なんて。」
と言っていたけど
むしろ彼の方が旅行好きになった気がする。


勉強もたくさん教えてもらった。
彼はとても優秀で学年でもトップクラス。
お陰で1つ学年が下の私は
どんなことを聞いてもすぐに答えてくれる
スーパー家庭教師を得た。


本当に夢のような幸せな日々を過ごしていた。



そんな彼とお別れした理由は
将来の方向性が違うかもしれないと感じたから。

彼は地元に帰らなければならなかった。
最初は私もついていこうと思っていたので
彼の地元に就活しに行った。

でも、彼の地元に着いた瞬間
「私の居場所はここじゃない」
と感じたのだ。

根拠はない。
ただそんな気がした。


正直に話した。

「俺も地元に帰りたいわけじゃないけど
父親の面目を潰さないために色々考えて妥協した。
やりたいことがあるのは分かるから尊重はするよ。
だけど、結婚したいと思っているなら
俺の地元に来ることに妥協してほしい。」

そう言われた。

その時に思った。

妥協しなければならないことは
人生においてたくさんあるけど
私はここまで医師として活躍することを夢見て
頑張ってきた。
恋愛しに医学部へ行ったんじゃない。
やりたいと思い描いていることがあるのなら
それは妥協はできない。


もしここで妥協したら
いつか何か不都合なことが起こったときに
彼のせいにしてしまう気がした。


それから数ヶ月
悩みに悩んで電話で別れを打ち明けた。
その時彼はすでに医師となり地元で働いていた。


彼の地元から私の家までは
新幹線や電車を乗り継いで5時間以上かかる。
コロナもあって中々会えず
一通の電話で私は
この4年9ヶ月を終わりにしようとした。

「来月プロポーズをしようとしたのに。」
電話越しに言われた。


彼は少しずつ勘づいていたとはいえ
いざとなると最初受け入れてくれなかった。
でも、一度決めたら揺るがない
私の性格をよく知っている。


こんなにも密度の濃い時間を過ごしてきたのに
電話で終わりにしちゃうのは後悔するといい
翌週私の一人暮らし先まで来てくれた。



彼は少しやつれていた。
仕事がとてもハードなのだろう。

そんな疲れ切った彼をみて
支えてあげたい気持ちが込み上げてきて
複雑な気持ちになった。


3日間一緒に過ごした。
幸せだった思い出を振り返りながらたくさん泣いた。
最後の時間くらい笑って過ごしたかったけど
無理だった。

こんなにも幸せなのに
本当にお別れしなくちゃいけないの?
この選択は本当に合っている?

心の中で自問自答し続けた。


でも、わかってる。
楽しくて幸せな思い出だけが次々と溢れ出てくるけど
きっとまた同じことを繰り返す。
ましてや次は遠距離恋愛。
数ヶ月に一度会えれば良い方となってくるだろう。


考えは変えなかった。


「俺が、『分かった。お別れしよう』って言ったら
終わりにできるんだよね。
でもその一言がどうしても言えないよ。」

そう言って泣いていた。
初めて泣いている姿を見た。


彼はとっても強い人だから
泣く姿は一度も見たことがなかった。

3日間はあっという間に過ぎた。

「最後は笑顔でお別れしようね。」

そう言って、駅まで見送った。


帰宅後一人で泣いた。
たくさん泣いた。
どうしようもなく悲しくて
本当にこれで良かったのだろうかと
ただひたすら考えていた。



お別れしてから1年半以上が経った。

彼は元気にしているだろうか。
来年度は初期研修を終え、専攻医となる。
何科のお医者さんになるのだろう。

新しい恋はしているかな。
運命の人と出会えたかな。
幸せに暮らしているだろうか。

4年9ヶ月も付き合ったから
恋愛感情がなくなっても
事あるごとに彼を思い出す。


将来の方向性の違いからお別れすることになったけど
彼は人間として尊敬できるし
大切な人であるごとに変わりはない。


私が医師になるのをずっと応援してくれていたから
お陰様でちゃんとお医者さんやっているよ
と伝えたい気持ちもある。


それでも
お互いがそれぞれの道を歩み出しているから
連絡はしない。


どうか、幸せな日々を送れていますように。
そしてこれから先も素敵な人生を送れますように。


いつだってそう願っている。

この記事が参加している募集

忘れられない恋物語

夏の思い出

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?