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生活音のシャッター

どこにも居場所を見出せなくなって、また目的もないのに乗り継ぎに便利な駅の方向に近づきながら身体を揺られている。

横たわっていないと世界との均衡が保たれないと思った。テスト期間で早めに下校し始める中学生の歓声が窓を叩く。

私が衝動に乗っ取られるのは14、15時が多い。目を閉じても夢がないとわかったら、ベッドをビンタして立ち上がる。ちょっとフラフラしてから、オーバーサイズの服をスッと取り出す。気の抜けた1日にボディーラインは出したくないのです。乙女心は日々更新されていくのです、わ。

はみ出た誤謬寝癖を天然パーマに訂正して、世間様に合わせる顔がないので謝罪する。
アクセサリーだけは一丁前にフル装備する。右手小指薬指にリング、左腕にブレスレット、それだけ。

白紙の予定表の上をNEW BALANCEで歩む。昨日の弱々しい雨の中でも履いていたが、もう乾ききって退屈している。

分厚い雲に監視されながら、降りたことのない駅を散策する気になっていた。揺られながら思いついた。ものの20分ぐらいの発想だ。

見慣れない道を進む。住む街ならではの程々の静かさに落ち着いて、わからないなりに駅周辺を徘徊する。

レコードが並び、ジャズが流れている喫茶店があった。

コーヒーとデザートのセットを頼みつつ、本棚にあった浅野いにおの「世界の終わりと夜明け前」を手に取った。やるせなさでここに辿り着いたにしては追い打ちをかけるように草臥れた生活感が身に染みて苦しくなってしまった。

1時間ほどで読み切り、苦みごと飲み干して店を後にした。目で捉えるのも難しいぐらいの細かい雨が降り始めた。

日の光を浴びた感覚はないのに、夕暮れを時計で確認する。外の空気を吸えばスカッと靄が晴れてくれるとまでは思わないが、むしろ視界が悪くなっていくのもわかっていないふりをした。

お惣菜、お弁当を店頭で販売していたおばちゃんがシャッターに手をかける。もう、お弁当が売れない時間になった。窮屈に感じたところに撤収しようか、この街の風景になろうか。

帰りの足で、古着屋やセレクトショップに寄って、買ったり買わなかったりした。どちらでもよかった。また逃げるように眠りたくなった。生憎、持ち歩いていた本は遠い昔にブックカバーを外してしまったのだった。ラッシュ時の人の中で表を明かして中身を読むのは気が引ける。公の場で身の内を明かしたくないのだから、大衆と同じポーズを取ってスマホの中で何かを探す。受動的なSNSを眺めるよりは、noteの中で「エッセイ」を読んでみる。

生活を俯瞰しながら、日記のようでありながらちょっとおまけが付いていた方が文章が面白くて好きだ。顔も名前も知らないのに、生活の動きがミクロに見てとれる。

最寄駅のスーパーで割引シールが貼られたお惣菜を買う。君たちも売れなかったんだね、と同情するように、疑うことなく救いの手を差し伸べた。


自分を甘やかしてご褒美に使わせていただきます。