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子どもにとっては、本物。

まだ幼稚園に勤めてまもなくの頃。
今でも忘れられないエピソードがある。

4歳児、年中さんのクラスを担任していた。
男の子たちは、紙をくるくると丸めて、剣作りに夢中なっていた。
始めは太かった剣が、だんだん指先の使い方が上手になってきて、細く丸められるようになってきた。

ある男の子が、それはそれは嬉しそうに、

「先生!できたよ!かっこいい剣!!」

と、見せにきた。
私はたぶん、あまり深く考えもせずに、こう答えた。

「うわぁ、すごい!本物みたいだね!」

そして、男の子の顔が見る見るうちに曇っていく…。
そして、少し怒ってこう言った。

「本物みたいじゃない!本物なの!」

そこで、私ははじめてハッとした。
子どもにとっては、自分で頑張って作り出したものは、いつだって『本物』なんだと。
そして、その時から、先生の声かけひとつで、子どもの達成感を左右するということを意識するようになった。
それからは、子どもたちの『本物』を、存分に認めてあげるようにした。



その一方で、例えばその時に流行っているテレビアニメに出てくるアイテムなどを、幼稚園にある廃材などで子どもたちに作ってあげた時、

「違う、それ本物じゃないからやだ〜」

という子もいた。
よくよく考えてみると、その子は、家に本物のおもちゃがいっぱいあった。
テレビアニメに出てくるそのアイテムも、おもちゃやさんに売っている"本物"を持っていた。

そして、その子自身が作ったものをお母さんに見せると、そのお母さんは、

「えー、何作ったのー?ちょっとぐちゃぐちゃじゃーん。今度◯◯ちゃんに作り方教えてもらいなよ〜」

と、いうような反応をすることが多かったのである。
たぶん、お母さんも悪気はなかったんだと思う。
でも、子どもにとっては、なかなか辛辣な言葉だ。
その子は、作ることへの意欲、楽しさ、面白さ、そういうものはどんどん失われてしまって、自分が作りだすものへの価値を感じられなくなってしまったようだった。



幼児期までに、自分なりの本物をたくさん作って、愛情をもって遊ぶ経験を、大事にしてあげたいと思う。
そしてその経験は、実社会での『本物作り』につながっていく。
人々の不便を解消するものかもしれないし、日常をより楽しくするものかもしれないし、まだこの世にない大発明かもしれない。

もちろん、物づくりだけでなく、自分が提供する様々なサービスで人を笑顔にするという、その原動力にもなっていく。

大人は、子どもたちがもっているそんな芽を、どうか摘んでしまわないようにしたい。
たっぷりの水をあげて、育てていこう。

未来を担う子どもたちの健やかな成長を願って…。大切に使わせていただくことを約束します!